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魔法勝負

 二人は同時に加速魔法を使っていた。

 レツ側から見てレツは左にクウは右と、反対方向に動く。

 レツはもちろん《アクセル》を使ったわけだが、クウが使ったのは光を纏った光属性の加速ライトニング・ラッシュであり、その姿を見たレツは衝撃を受けた。


(あれは《ライトニング・ラッシュ》!? 光属性の魔法なんてそう簡単に習得できるもんじゃないぞ!? 新人詐欺も大概にしろ!!)


 尤も、新人詐欺はレツが人のことを言えたわけではないのだが。


 レツは街での行動時は常に《ステルス》を使用してきたことで、魔力が鍛えられていた。おかげでレツの魔力は100だ。

 一般的にステータス100前後がランク3の指標とされており、魔術師の場合は魔力が100前後ならば十分ランク3相当と言える。

 また、レツは資格取得前から魔獣狩りをしていたくらい、実戦経験も豊富だ。


 レツは驚きを見せながらもすぐに対処していた。

 纏った光を見た時点で即座に方向転換し、クウの方向に向かっていた。


「《ネオ・アクセル》!」


 進化した《アクセル》は、これまでの比ではない速度をレツに与え、風の魔力による緑の軌跡を描いた。

 それを見てクウは笑う。


(……やっぱり来たわね)


 クウはレツの行動を予測済みだった。


(光属性の魔法を見ちゃったら、好きにさせるわけにはいかないものね。でもそれが狙いだったのよ!)


 クウはカクカクと方向を転換し、レツに向けて突進していった。

 光属性の加速は直線的なものであるため、段階的な移動が必要となってしまう。しかし、その分どの属性よりの加速よりも速く、体当たりするだけでも高い威力となるのだ。


(やっぱりそう来たか!)


 光属性の魔法を使ってきたことにこそ最初は驚かされたレツだったが、使えることが分かってしまえばレツにもクウの行動の予測は可能だ。

 レツは踵で急ブレーキをかけながら叫ぶ。


「《アクセル・バースト》!!」


 すると、これまで軌跡を描いていた緑色の魔力の塊が、クウに向かって解き放たれた。

 直線的な移動となってしまう《ライトニング・ラッシュ》の使用中であれば、命中は避けられないだろう。

 加速を解けたところを一気に畳み掛ければ、レツの勝利はほぼ確定だ。

 だが。


「そんな!?」


 飛ばした直後、クウは右斜め方向に向きを変えて回避し、もう一度進行方向を変えることでレツの背後を取った。

 そして加速魔法を解除して光の球を三連発。


「読みあいは私の勝ちのようね!!」


 読みあいはレツの完全敗北であった。

 背中への一撃をレツに回避する術はなかった。


「ぐっ!?」


 的の色が変わるまでは勝負は決まらない。

 飛ばされて俯せの状態のレツに、クウは追い打ちをかけていく。


「《メテオ》!」


 飛ばされた先の上空に巨大な光の球が出現。そしてそれがレツに向かって降りかかる。


「……仕方がない」


 倒れたまま状態のままレツは手だけを動かして、直接トルネードショットを地面に叩きつけた。

 叩きつけられたところに竜巻が発生、吹き飛ばされるようにして舞い上がることによって、《メテオ》を回避したのだ。


 砂埃を舞わせることが目的の使い方ではないため、視界がかすんだり目が開けられないようなものは発生しない。

 だが、おかしい。上空を見上げながらクウはそう思う。


(どこにも姿がないわ)


 飛ばされる瞬間を間違いなくこの目で見た。

 あまりの早さに一瞬目で追えなかっただけで、姿が見えないのはおかしい。どこかに隠れたのだろうか?

 しかし、地面に着地した気配もないし、風魔法を主に使っていることから空中にいるのはほぼ間違いない。

 警戒しているクウの耳に、右奥からザクッという音が入ってきた。


「そっち!?」


 思わず声を上げてその方向を見てみると、地面に風魔法で作られた刃が撃ち込まれていた。

 今度はまた別のところから同じ音が。

 クウは確信する。


(《ステルス》を使えるの!? 短剣といい風属性といい暗殺者志望なのかしら……? ともかく、タネさえ分かればこっちのものよ)


 クウはレツが習得魔法している魔法に顔をしかめながら再び上を見上げて、両手を天に向けた。


「真の姿を照らし出せ! 《ホーリーシャイン》!」


 光が訓練場を覆うと、上空に一人の影が現れた。


「もうバレたか! それなら!」


 居場所が明かされたレツは、空中に留まるのをやめることにした。

 自分の後方に魔法を炸裂させる。


「《エア・ボンバー》!」


 これは言わば風属性版の《ボムブースト》。クウに向かって勢いよく弾き飛ばされる。

 風属性には便利な《アクセル》が存在する上、《ボムブースト》の劣化でしかないことから、一般的に使われることはないが、火属性魔法を習得しておらず、魔法ランクも低く空中移動がまだまだ発展途上であるレツにとって、精一杯の空中からの加速手段。


 だけどそれで十分。

 レツは風の魔力を固めて作り上げた刀を両手で振り上げ、それを飛ばされた勢いのまま振り下ろそうとしていた。

 クウにとっては一見危険な状況。だがこれはチャンスであった。


 胸の的ががら空きだ。


 攻撃を当ててしまえば模擬戦は勝利である。

 クウは高速で魔法を放つ自信があった。恐らく相手は自分が先に攻撃できると思っている。


「もらったわ! 《メテオ・キャノン》!」


 クウの手前から予備動作なしに光の球が放たれる。

 この時クウは勝利を確信して笑みを浮かべていたが、すぐにその表情は悔しさで上書きされることとなる。

 レツは刀を胸の前で構え、防御に移っていたのだ。


 これは攻撃を読んでいたことを意味する。

 光の球が風の刃に命中した時、レツはこう笑っていた。


 ――今度の読みあいは俺の勝ちだな。


「くっ……まだよ!」


 的は守られてしまったものの魔法の威力をかき消せるわけではない。

 その証拠にレツは後ろに跳ばされている。

 だからレツに負担を与えて行けば、その内隙が生まれるはず。

 もう一発打ってやろうと思ったその時だった。


「――きゃあっ!」


 強風で身体が宙に浮きそうになり、クウは魔法どころではなかった。

 一体何が? そう思ってレツを注意深く見てみるが、これだけの強風を起こせる魔法を使っているようには見えない。

 飛ばされたところから、風の刃を地面に突き刺しているくらいである。


 ……風の刃を地面に突き刺している?


 ここでクウは気が付いた。


「まさか!?」


 姿を消した時に撃ち込んできた風の刃、そしてレツの刃……見てみれば四角形に囲まれていた。

 そしてその範囲内に暴風が吹き荒れていることを、クウは即座に理解した。


「結界魔法!? でもこんな魔法、聞いたことないわ!?」


「まさか使わされるなんて思っていなかったけどね」


 クウはそれでも何とか対処しようとする。だが、暴風が吹き荒れるこの状況では、まともに思考力が保てない。つまり無力化の魔法も使用できない。

 取れる手段はただ一つだった。


「降参よ!!」


「この勝負! レツの勝利!」


 降参宣言によって魔術師同士の模擬戦も終わりを迎えた。



 暴風から解放されたクウは、負担がかかるのかフラフラしているレツに肩を貸しに行き、それから尋ねる。


「すまない、肩貸してもらって」


「気にしなくていいよ。それりもあの魔法が何か気になるわ。よかったら教えて?」


「ああ、あれは僕の考えた魔法だよ。《ステルス》魔法の中に、範囲内にいるものの存在を感知されなくなる結界魔法を知ってたけど、うまく完成させられなかったんだ。そこで風属性を混ぜたりとか色々してみたら、偶然生まれた。ちなみに名前は《風結界・暴風陣》とか考えているよ」


 一般的なものとはかけ離れている名前のネーミングセンスについては苦笑いするしかなかったが、それ以上に衝撃発言が飛んできた。


「発動条件やご覧の有様のように、あまり実戦では使えないけどね」


 本人は悔しそうにそう付け足すが、新人としてはかなりの偉業である。


「それって自分で魔法を作ったってことだよね!?」


 あまりの衝撃に思わず声が大きくなってしまったクウ。

 その声が聞こえたギルドメンバー達もざわついた。


「魔術師じゃないから知らなかったくらいに思っていたけど、オリジナルの魔法だと!?」

「でもそれがなかったらゴーグルくんもやばかったよな」

「それでも魔法を考えた事実には変わりないよ。とんだバケモンぞろいだな今年はマジで」


 やってしまったと慌てて片手で口をふさぐクウだったが、レツは気にしていないようで早く観覧席前まで連れて行くようにだけ言った。

 そして観戦席手前まで戻った所で、レツはクウに離れてもらうように促し、模擬戦を待っている二人に頭を下げた。


「ごめん、体力がもう持ちそうにないや」


 それからフラフラと地面に倒れた。

 模擬戦を行っていない二人については緊急事態である。

 対戦相手がいない入団テストはどうなるというのだろうか?

 心配して慌てた様子の二人にレツは言う。


「何、心配する必要はないさ。そもそもここには合格者しか連れてきてないと思うよ」


 それから上半身を少し持ち上げて後ろを振り向き、カマルを見上げた。


「ですよね、ギルドマスター?」

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