決勝
「さてと」
ヴェルは自身の周囲にいくつかの砲塔を作り出し、それらはレツに向けて一斉にいくつもの雷の弾を放っていく。軽い掛け声からは信じられない攻撃の嵐だ。
レツもレツだ。それに怯むことなく正面に向けて駆け出した。
「こっちも飛ばしていくよ!!」
あれだけの弾を迎え撃つという一見無策に思える突撃だが、レツも考えなしに行ったわけではない。その身体に炎を纏っていた。
弾が当たる直前に、それらの炎を爆発させることで相殺していたのだ。
「《烈火》!」
「これは……!? 岩野郎に対して使った技か。チッ、厄介だな!」
この弾幕を真正面から掻い潜ってくることは、流石に想定していなかった。思わず舌打ちをしているが、その表情は楽しげだ。
(流石レツと言ったところか。攻撃の豊富さにはわくわくさせられる!)
「だが、こっちも負けてねぇんだよ!!」
ヴェルは想定外の相手の行動への遅れを感じさせることなく、大量の砲塔を一本の剣に変形させて右手で握る。そしてその剣で、レツの短剣を難なく受け止めた。
「な!?」
そのことにより、レツは明らかな動揺を見せる。
相手はヴェルだ。あの状況からでも受け止められる可能性くらいレツも考えている。
ではどこに動揺したのか。魔力を固めることによって作られた剣に、実態を持った短剣それも風と火を纏わせて強化したものが、一切通用しなかったことだ。
ヴェルはその隙を逃さない。左手に棒状に魔力を固め、それを横に振るった。
「ぐはっ」
「知ってるか? 魔力で作り出した武器にも武器魔法による強化は可能なんだぜ!」
攻撃の手を緩めるヴェルではない。解説しつつも右手の剣を宙を舞うレツに向けて投擲する。
投げられた剣は5本の矢に別れ、レツを逃がそうとはしない。数が増えればそれだけ逃げ場がなくなるとうことだ。命中は必至かと思われた。しかし。
「《点火》!」
レツからボッ! という音がしたと思えば急加速し、ヴェルの腹部に頭から突っ込んでいた。
「そうきたか!?」
『ここでまさかの頭突きだー!?』
ここまで様々な魔法を使ってきた中で。まさかの原始的な攻撃手段に実況も驚きを隠せない。それだけ効果的であったということでもある。事実、ダメージを与えながら回避にも成功している。
自身への反動に涙目になりながらもレツは得意げだ。
「どうだ!」
そんなレツにヴェルは思わず叫ぶ。
「けっ! こんなの痛くもねぇよ!」
負け惜しみに聞こえるかもしれない。それでも、このくらいで痛みを感じている場合ではなかった。
(レツのあの姿を引きずり出せてもいないのに、そんな攻撃一々気にしていられるかよ!)
レツの真の力を引きずり出すために、ヴェルは次の手に移って行く。
「《雷装――サンダー・ウィング》」
ヴェルは一対の翼を自身の背に作り出し、それを用いて上空へ飛び上がった。
「得意分野で行くとするかな」
地上と上空でやりあうのであれば、上空の方が有利であることは想像に難くない。レツがこのまま地上にいるのであれば、そのまま有利に戦いが進められる。レツが上空にきたとしても、翼の支えがあることから機動力では負けない自信があった。
だからこそ得意分野。これならばレツも黙ってはいないだろう。
「さあ、どうくる?」
レツは明らかに誘い込んでいるヴェルを見上げ、不敵な笑みを浮かべた。それから、自身の必殺技の一つを発動した。
「……《神風》」
レツの周囲に風が吹き始めた思えば、一気に急上昇。ヴェルはレツを上空に来させないようにするべきなのだが、その速さに叩き落とすのが間に合わない。直接迎え撃つしかなくなった。
ヴェルは剣を作り出し、レツの短剣による攻撃を受け止める。
「やっぱり止められなかったか。流石だな! ま、“今の”お前には負ける気はしないがな!」
対してレツはどうかな? と笑い、それから呟くようにして言う。
「お返しをまだしていなかったよね」
「お返しだぁ?」
お返しの意味が理解できなかったヴェルだが、すぐにその真意を知ることになる。
レツの空いていたはずの手には、魔力で作り上げられたもう一刀の短剣が。
ヴェルは瞬時に盾を作り上げてそれを受け止めるが、短剣の強度に驚きを見せた。
「……!?」
これまで何度も武具を創造しながら戦ってきた身として、慣れていない人がその場しのぎで作ったような武器は脆いものだと思っている。それこそ盾に叩きつけたら折れてしまうくたいには。
しかし、そうはならなかった。ここでヴェルは理解した。
「そういうことかよ!!」
マイとの試合ではレツの技をアレンジしたものを使って見せたわけだし、この戦いの中でも武器魔法が適応されることを教えた。
だから、レツは教えてもらった用法に相手の得意分野を使って返してきた。これがお返し。
「これくらいは作れるように練習していたんだよ。対戦では使えないと思ってはいたけど、その問題も解決したから使わせてもらったよ」
レツは喋りながらもそれぞれの短剣で交互に攻撃していく。その攻撃速度に、ヴェルは防戦一方に見えたが……。
「そうか。だったらもう一つ教えてやる。武器に合わせた戦い方も覚えておくんだな!!」
次の瞬間には、ヴェルが発光したかのように見えた。ヴェルは自身を中心として放電したのである。
攻撃にのみ集中していたレツは、それを直撃してしまう。
「ぐっ……」
「二刀流にするのはいいが、今のように防御が疎かになっている。単純に武器を作ればいいってもんじゃないんだよ」
レツが仰け反っている間に、ヴェルはレツから距離を取る。それも雷の球体を落としながら。
体勢を直したレツはそれらの弾を回避しながらヴェルに向かうが、球を避けながらではヴェルに追いつけそうにない。
「だったら!」
レツは握っていた短剣を鞘に納め、指で銃の形を作った。それから、火属性が付与された《空弾》を撃つ。撃つ。撃つ。
「《烈風弾》!」
片や高速で飛び回りながら弾を落として行き、片やそれに追いつこうと弾を放っていく。これまでの戦いと違って異色の戦いに見えたという。
双方に攻撃が当たることはなく、無限に続くかのように思える空中戦。しかし、そう長くは続かなかった。
(……このままじゃ僕自身の魔力が)
ヴェルが自身の翼を操作することで飛び回る中、レツは自身の消費魔力が激しい《神風》を用いて、何とかやりあっている状態であった。消費魔力の差は大きい。現状のままでは、レツの敗北は必至だ。
(あの力を解放する時かな? いや、僕はまだヴェルの本気を引きずり出せていない)
レツには確信があった。ヴェルの全力はこんなものではないと。
(だったら、残りの魔力でそれを引きずり出させてやる!)
レツの纏っていた風が赤色に染まっていく。
「《鎮火》」
レツは右手を手前に突き出した。すると爆発が連続的に起こり、雷の球体が全て排除される。攻撃を躱す必要が無ければ。速度も負けていない。
「さあ本気を見せてみろ! ヴェルゥゥゥウウウ!!」
「まだだ! お前の全力も引き出せていないのに使えるかって言うの!!」
意地の張り合いだった。その意地の張り合いも《鎮火》が発動した以上長くは続かない。レツにとってもヴェルにとっても。
「《烈火》!」
「《雷装――サンダー・シールド》!」
爆風とそれを受け止めるヴェル。
「それ、ちょっと使わせてもらうよ! 《雷火》!」
「がっ! 俺の魔法を利用だと!?」
爆ぜる雷の盾。
「まだだ!」
盾を失ったヴェルに対して《烈風弾》を放つ。ヴェルは雷を放つところで何とか相殺したところで、笑い始めた。
「ははははは!」
一見奇行にしか見えなかったが、ゆっくりと地上に降りていくヴェルを見て、レツはその意図を察した。攻撃の手を止めて、ヴェルに合わせて地上に降りていく。
「想像以上だわ。この火力は止められないわ。今のままじゃ勝てない。認めるよ」
「こっちも《神風》と《鎮火》の併用で、もう持たないところだったよ」
長くは続けられないと双方が感じていたのだ。
揃って地上に降りたところで、同時に宣言する。
「「最後は全開だ!!」」
今更ながら誤字報告をオンにしました。




