枷
「くそ! 迷宮組ということで直接火を使える可能性は考慮していたが、まさか完全に独立して動いてくるとはな! 流石にこいつは計算違いだ」
一見焦っているように見えるヴェルだが、その表情からはまだまだ余裕を感じられた。何せ、その折角の独立して行動する火の精霊の魔法も現に無力化に成功したからだ。絶対的な優位は変わらないだろう。今も撃ってくる火は弾くだけだし、本体は容易に動けないはずだ。今現在もに水の壁に守られている。
しばらく同じやり取りが続いたが、次第にヴェルから表情が抜け落ちていく。
あまりにも動きがない。
不自然だ。魔力切れを狙っている? 彼女のことだ。そんな無粋な真似はしないだろう。そうなれば見えてくる答えは一つ。
「そういうことかよちくしょう!!」
相手の行動を理解したヴェルは、叫びながらも《雷装――マルチ・タレット・マグナム》の魔力を形作られる前に戻し、新たな装備に即座に作り替える。そうして作り上げられたのは一対の翼。
その翼を一度だけ大きくはためかせ、上空に飛びあがる。すると、水の壁とそれによって身を守っていたマイがただの水となって形を崩し、代わりにヴェルがいたところの近くに別のマイが現れて吹き飛ばされていた。
その様子を見てやはりなと、ヴェルは仰向けに倒れているマイを睨む。
「本当に厄介だな」
『マイ選手が瞬間移動を読んで阻止!? いや違う! 火に対処する必要が出てきたことによって僅かに変わった攻撃のリズムの合間を縫って、分身を用意したりと脱出の準備を進めていた! 脱出後の行動は阻止されましたが、まだまだ戦いは終わりそうにないぞ!!』
「フフッ、足りないよ」
解説を聞いたマイは、仰向けに倒れたまま不敵に笑う。
「私が姿がなぜ消えていたのか、その説明がね!!」
その瞬間、空気が振動した。
「行くよ!!!」
「させるかぁぁあああ!!!」
二人の絶叫。彼らの目の前には大きな魔力の集まりがあった。
マイの目の前に集められた魔力は、炎の塊に姿を変えヴェルに向かって放たれる。
ヴェルは自身の手元に自分の身長よりも大きな盾を作り出し、それで受け経つ。
二つの大きな力がぶつかるが、炎の塊は盾を破壊することなく消滅した。しかし、だ。
「クソが!!」
力のぶつけ合いに勝ったはずのヴェルが、敗北者のように叫んだのだ。その答えは解説が。
『さて、そろそろ種明かしの頃か! 先ほどマイ選手の姿が消えていた理由を! 実はマイ選手は攻撃のリズムが変わったことを利用して空気中に水分量を少しずつ増やしていた! 空気中の水分量が増えれば水魔法使いなら隠れるのは容易、水に写る映像を変えてしまうなりすればいい! さて、これが今の状況にどう繋がるのかと言えば、マイ選手は炎の魔法を使った、そのことによってこれまでの戦いの中で撒かれてきた水が熱された……あとは分かるな!!』
マイは気体と化した水を操ってヴェルを包み込み、一つの雲のようになっていた。
「これで私の勝ちは確定!」
マイの勝利宣言と同時にヴェルを覆っていたそれらが凍りついた。
凍りついたヴェルは浮遊状態を維持できなくなり落下、それで氷は割れてしまうがマイの環境作りはすでに成功している。
「いつまで続くかな!」
マイの周囲に複数の水球が出現。そこから水の鞭が作られ、ヴェルに向かって放たれていく。
ヴェルはそれを迎え撃つために自身の手に武器を作ろうとするが、形作っているところに水が混ざり込んで妨害される。
「あああああ!!」
ヴェルは苛立ちを露わにするが、対応できないことには変わりない。複数の鞭が今もヴェルに襲い掛かろうとしていた。
『攻守が完全に逆転した!! ヴェル選手、打つ手はあるのかー!?』
救護室では相性講座第二弾が始まっていた。
「ヴェルの魔法が完全に封じられてるね」
「う、うん」
レツは一方的にヴェルがやられている状況に驚きが隠せない。環境作りが終わっただけで、あのヴェルがこうも簡単にあしらわれるとは。
「相手の魔法を封殺してしまうのも相性の一つなのさ。ヴェルが武器を作る時に、不純物を混ぜてあげれば」
「形作りに失敗する」
それをしやすい環境を作るのが、マイの環境作りであった。相手を凍らせることができるだけの水を一度ぶつけてしまえば、相手は常に水を纏ったような状態になる。マイはそれを操るだけだ。
「そう、それが封殺。僕の魔法の場合、球体を形作る前に地面を氷で覆われたりしたら、球体を作る前に地面に水を浸透させられていたとしたら」
「二人に瞬殺されると言うのも納得だね。だけど」
レツはピエールのことを聞いた話を踏まえて再評価する。
「そんなことができる人は限られてくるし、“タイマン”ならやっぱり最強クラスだね」
レツが強調したタイマンって言葉に、ピエールは悔しそうに苦笑いする。
「複数人なら彼らの能力を持たずとも再現可能だからね。僕もっと強くならないと」
「その時は相手してくれよ」
「もちろん!」
一通り話を終えた二人はモニターに再び意識を集中させる。今のままではヴェルが一方的にやられておしまいなのは目に見えているが、それはあくまで今のままならだ。
(封殺とは言ったものの)
(封殺とは言われたものの)
二人は同じことを考えていた。
((まだ勝負は分からないぞ! ヴェルは枷を外すのか!?))
▲△▲△▲
マイの策にはまり、俺は武器を形成することができなくなっていた。そのことによって防御もできず一方的に攻撃を受け続け、正直意識も朦朧としてきている。
実況だか解説だか、ついでに年齢もよく分からないことになっている学長も降参を勧めているような発言を繰り返している。
『ヴェル選手、敗北確定かー!?!?』
うるせーよ!!
俺はやろうと思えばこの状況をどうにでもできる。だが、こだわりがそれを許さない。
……そういえば、どうして俺はこだわりを持つようになったんだっけか? 攻撃を受け続ける中、なぜかその記憶が蘇ってきていた。
俺は小さな村で生を受けた。当時は村特有の別の名前も持っていたが、それはどうでもいい。その村には、俺より少しばかり年が上の天才の女がいた。
その女は神童と呼ばれるだけの魔法の才能を発揮し、村だけではなく付近の街でも名前を轟かせるようになってくる。
その強さに憧れた俺は、女に頼るという同年代の餓鬼が馬鹿にする行為を気にせずに、その女に弟子入りを志願。恥を気にせずに強さだけを求める態度を気に入ったのか、無事弟子と認められた。
最初は師の暇な時間に村の中で魔法を教えてもらうくらいだったが、数年経ってからは冒険者資格はないものの師の手伝いとして村の外にも繰り出すようになってくる。
その頃には、武器はまだ作ってはいないものの、他の同年代と比較しても非常に強い力を手に入れていた。風属性だけではあるが、師の得意としていた魔法化に雷への変化も習得。俺自身も天才と呼ばれつつあったが、俺は知ってしまう。
世間からの師の扱いを。
世界的にも有名になっていたが、強さの限界を迎えただの天才の底辺だのと言われるようになっていた。自身の師が悪く言われるのを我慢できなくなった俺は、直接師に言う。
「今のままではダメです! 新しい力を身につけましょう!!」
それに対する師の返事は、俺をひどく絶望させた。
「言わせておけばいいさ。これ以上力を身に着けて何が変わると言うんだ? 他者からの目線? それは強さを持った者の宿命。叩ける箇所を粗探しされるだけさ。それなら修行の時間を依頼に当てて、より多くの人を救う」
正論だとは思う。だが、そこにはかつて俺が憧れた師の姿はなかった。どんどん強くなっていくあの人は、どこに行ったのだろうか……。
それなら……。それなら!!
俺は思わず叫んでいた。
「それなら限界を迎えてしまったあんたを越える!!」
この時、俺の手には雷で作られた簡単な剣が握られていた。これが最初に作った武器だった。
「内側を変化させる限界を迎えたと言うのなら、俺は外側だ!! それだけでやってやる!!」
これが武器生成へのこだわりの始まりだった。
そんな俺の言葉に、師は大きくため息を吐いて背を向けた。
「……好きにしろ。だが、それだけでは必ず限界が訪れるよ」
そして最後に小声で一言だけ言ったところで、師は去って行った。
「……この馬鹿弟子が」
こうして、俺と師は決別。
それから旅をしていく中で冒険者の街に行きつき、今に至る。
今なお攻撃を受け続ける中、俺はこの記憶が蘇った意味に気が付いた。
これだけじゃどうしようもない時って本当にやってくるんだな。今までは未然に阻止していたが、これが師の言っていた限界ってやつか。
そうしてこんなことに意地になっていたんだろうな。師匠を越えるのなら、外と内の両方を使ってもいいじゃないか。両方の限界を補いあえばいい!
俺は枷を外すことにした。
武器を形成せず全身から雷と化した魔力を放出し、水の鞭を弾く。
最初の《雷弾》のようなパフォーマンスでもないのに武器形成を使わなかったことへの驚きか、目を見開くマイに宣言する。
「勝負はここからだ!!」
マグネット版終了するか迷い中。
こっち一本でいい気がしてきてる。




