入団テスト!
模擬戦が始まり、速攻を仕掛けたのはルークだった。
剣を両手で振り回し、三つの衝撃波が放たれる。
「うおらあああ! 《トライソニック》!」
「くっ! 《ウィンドカッター》! 三連発」
ナイフの切先を手前に向けてそこから風魔法を撃ち相殺するが、これはレツの想像を越える一撃、いや三撃であった。
(ギルマスにああ答えちゃった以上やらなきゃいけないってのに、いきなり魔法三連発させんな!)
それだけじゃない、次の瞬間にはルークは剣を振り下ろそうとレツの眼前まで迫っていた。
(しかも速い!? この爆発的な加速は火属性の加速魔法か!?)
加速魔法は属性によって種類が別れており、例えばレツも得意としている《アクセル》は使い続けるほど加速していく。対してこの火属性の加速は最初が最高速度であり徐々に減速していくものだ。
狭い空間で使えば火属性の加速は爆発的な効果が期待できる。今回のように。
(でも減速の法則には逆らえないぜ!)
だがレツも負けてはいない。こうした展開にも対応できるように織り込み済みだ。相手が衝撃波を放ってきた時点で。
「《トルネードショット》!」
二人の足元の間に風の球が撃ち込まれ、竜巻を形成する。
竜巻に巻き込まれないようにするために、当然ルークは一度後ろに跳ぶことを選択するわけだが、ルークは再び相手を見据えようとしたところで気が付いた。
砂嵐のように舞う砂埃。おかげで目が開けられない。
ゴーグルの少年に有利な空間である。
試験官であったスタークは《トルネードショット》の時点で対策を講じられたが、経験の差がここに出た。
「目的はこっちか! ゴーグルなんて卑怯だぞ!」
目を開けようと頑張りながら叫ぶルーク。
そこに、審判でもあるが冒険者の大先輩としてカマルは指摘する。
「環境に合わせた地形利用、自分の戦闘スタイルに合わせた装備、これは冒険者の基本だぞ!」
「くっ、それもそうだな……ってうわー!」
目を開けられないでいるルークは、的に短剣による一撃を入れられてしまい、そのまま後ろに倒れた。
それに気が付いたカマルはフィールドを指定した状態に戻す魔法を使い、砂埃を消すだけでなく掃除を一瞬の間に終えったところで宣言する。
「この勝負、レツの勝ち!!」
レツは倒れているルークに手を差し出す。
「いきなり奥の手を使わされるとは思わなかったよ。君は強敵だった」
最初はそれを呆然としたまま聞いていたルークあったが、吹っ切れたように笑いだすと、その手を受け取って立ち上がる。
「フッ、勝った奴が何言ってるんだか。おかげで良い学ぶ機会をもらえたよ、ありがとう」
その様子を他の三人は呆然と眺めていた。
「なんか友情っぽいの成立しちゃってるし……」
観戦席側のギルドメンバーはいいものを見せてもらったと笑っていた。
「環境利用か、冒険者資格の難易度が上がってから使いこなす初心者は滅多にいなかったな」
「冒険者の犬死にを減らすための難易度上昇だったが、だからこそ魅せるように戦うようになってしまい、冒険者が弱体化した。そんな矛盾を見せつけられた気がするよ」
「彼もまあ悪いわけじゃないと思うけどね……高速衝撃波に《ボムブースト》をあれだけの速度で合わせられれば将来有望だよ」
そして二回戦。
次は杖の少女がレツの相手だった。
レツが開始位置で待機していると、少女は開始位置に立たずにレツの前まで来た。
「私はクウ。そっちの名前は知ってるから大丈夫よ。今来た意味、そして二回戦を選んだ意味、分かるかしら」
「ああ、魔術師同士での模擬戦を希望するってところだろ?」
「あら、話が早いわね。魔術師として魔法だけで優劣を競おうと思ってね。それじゃあ私も開始位置に立つかな」
「いや、まだ認めてないんだけど?」
話の途中に待ったをかける男が一人。ルークである。
「待て待て待て! レツが魔術師ってどういうことだ?」
それを聞いたクウは呆れている様子だった。
「直接戦ったのに気付かなかったの?」
「え? 待って? 俺がおかしいのか!? どうなんだよ?」
ルークはクウと一緒に観戦をしていた新冒険者たちの顔を見るが、二人は首を横に振る。
私がおかしかったのかと首をかしげるクウを見かね、カマルが解説する。
「あれは魔術師じゃない限り対人経験が多くないと気付けない。何せクセみたいなもんだからな。武器を経由して魔法を行使するのは」
魔術師以外でも戦いに魔法を用いる冒険者は多い。スタークもそうだった。
そこでスタークの戦いに注目してみよう。斧を叩きつけた点や空中で振るった点を起点としていた。
先ほどのルークも剣を振りまわすことで衝撃波を飛ばしていた。
「武器を使わない魔術師以外では、対人を積んでようやく違和感に気が付ける。基本的に身体強化系以外は全部こうだ。だが、レツは違った。最初の連発は一見武器を使ったように見えるが、向きの調整だけ。謂わば杖代わりにしていた。まあこの時点では私の中では疑惑だったのだが、決め手となったのは即座に打ち放った左手の《トルネードショット》だよ。魔術師でなければ右手から左手に切り替えるのは難しい」
ここでわざわざ細かい説明を入れる意図、それは本気でやれということ。
説明の時に、カマルの視線が何度もレツの方に向いていたのもそういうことだろう。
(連戦だから温存したいんだけど……)
しかしギルドマスターに言われていることだ。
レツは溜息を吐き、渋々従うことにした。
「……分かった。魔法で受けて立つ。ただし後悔しても知らないぞ」
「案外話が分かるのね。同じ土俵の上で戦いましょう」
言いながらクウは杖を放り投げ、位置に着いた。
レツが杖を持っていないため、不平等を感じたのだろう。
この時カマルは内心でほくそ笑んでいた。
(にぶくなくて助かったよ。ランク3相当と言われている君の全開、見せてくれよ!)
そしてクウが開始位置に立ったところで、二度目の模擬戦が始まる。
「模擬戦はじめ!!!!!」
そしてそれを合図として戦いは静かに動き出す。
レツが両手を手前に向けたと思えば、クウが手を上げる。
一見何もしていないように見える二人ではあるが、この一瞬の間に魔法のぶつけ合いが起きていた。
(《マジックリベレイト》! ……やっぱり初手はそうきたわね。思った通り名前を言わずに使ってきた。まさか両手とは思わなかったけど、念には念を入れておいてよかったわ……)
(両手の《トルネードショット》が分解された!? ルークといい妙に強くないですかギルマス! まさかそういうことですか!? ああもう分かった、とことんやるしかなさそうですね!!)
やると決めたレツは、改めてクウを睨んだ。
「……強いな」
「あなたも私の想像以上にね」
二人はそう一瞬笑みを浮かべたと思えば、次の瞬間にはその場所から離れていた。