本戦開始
予選の結果がどうなったのかについては、最早語るまでもないだろう。三強と呼ばれるようになった三人が当然のごとく三位までを独占した。そんな予選から一日開け、本選が始まる。
本選は街にある闘技場で行われる。闘技場は冒険者の街と言うだけあって、冒険者の力を披露する催しなどに利用するために作られたものだ。今回の大会もその催しの一つであるようで、一般人も観戦できるようになっていた。
そして今、その闘技場の舞台にレツが姿を見せる。試合前の開会式であるわけだが、レツの姿が見えた時点で歓声が上がっていた。否、レツだけではない。本選出場者が入場する度に上がっていた。一般人も観戦しに来ているようで席は埋め尽くされており、それだけの人数が叫んだらどうなるか。
自分の立ち位置まで進んだところで、歓声の迫力にレツは困ったように呟いた。
「……このイベント、こんなに注目されるものなのか」
自分達は所詮学生と言う認識をされるのだろうとレツは想像しており、催しとはいえ学生の戦いしか見れないような大会であれば、面白半分で来る人と未来の有力冒険者を探すギルドの人事担当くらいしか来ないだろうと考えていたためだ。また、今回の大会は準決勝以降は翌日に開催することとなっており、そのことから少なくとも初日はあまり集まらないだろうと踏んでいた。
何故このイベントにこれだけの人が集まったのかと言えば、迷宮組の存在が大きい。数十人が一気に火属性魔法の達人となれば、噂にならないわけでなかった。そしてその噂を知れば街の一般人……冒険者たちは当然興味を示す。強力な火属性使い達の戦いはもちろん見応えがあるだろうし、その火属性使いがたくさんいる中で勝ち残った者は間違いなく強い。強者同士の戦いが確定していると考えたのだ。彼らは観戦せずにはいられなかった。
本選参加者十六人がステージに揃ったところで開会式が始まり、学長が定型文のような挨拶を述べ、大会のルールが説明された。
大会のルールはシンプルだった。
・片方が戦闘不能と判断されるか、降参を表明するまで続く。
・実際の戦闘を想定しているため、武器の使用が可能。
・戦闘は舞台上のみ
・試合中にステージから出た者は敗北とする。
・死に至らしめてはいけない。
この五点だけである。
安全性についても心配はない。この大会のために上級回復魔法の使い手も多く呼んでおり、命を失わない限りは片腕が例え消し炭になろうとも治療可能だ。ついでに舞台が戦いの余波で壊れることも想定済みで、舞台を直す者も呼ばれていた。全力で戦える環境がこれでもかと作られていた。これには学生もやる気が自然と湧いてくる。
全員のやる気が最高潮にまで高まった所で、そのやる気も学長が付け足した一言で散るのであった。
「実況と解説もいれる予定じゃぞ。わしが両方とも担当する!!」
「「「そんなことかよ!?」」」
実況と解説を入れるのは盛り上がるしいいとしても、このタイミングでわざわざ入れる発言なのだろうか、しかも両方やるつもりらしい。呆れの声は選手だけでなく会場全体から発せられたものであった。
「ん? 一人でできるのか不安だって? なに、問題はない! それ、分身!!」
その呆れの声を学長は何か勘違いしたらしく、さらに残念さを発揮していく。
学長の身体が光ったと思えば、左右に二つに分かれて光が分散する。光が散った所には、姿の変わらない学長と色黒の学長の二人がいた。
「「わははははは!! どうじゃ!! これなら問題ないじゃろ!!」」
喋っていることから意思を持っていることが分かるが、意思を持った分身は超高難易度魔法だ。冒険者の街の学校の長であるだけあるが、実況と解説のためにそれを使うのは明らかな才能の無駄遣いであった。そのことで会場全体を呆れさせたのだ。
そんなこともあったが、最後にトーナメント表が発表され、一回戦まで一次解散となる。観客席が埋まっている中、出場選手たちはどこで休めばいいのかと言えば、専用の待機場所が用意されていた。
その専用の待機場所まで向かい、入り口を開いたところで、レツの動きが止まった。
(ここ、本当に入っていいの!?)
専用の待機場所に指定されていたのは、高級な観戦室。部屋に入ろうとした時点で、高級そうな純白のクロスをかけられたテーブルに床一面に敷かれた赤い絨毯が見える。小規模なパーティーも開けるくらいの広さもある。実際それを目的とした部屋作りだ。もちろん戦いを間近で見られる超特等席である。
一般庶民であるレツとしては、どうしても尻込んでしまうが、彼の耳に一人の女性の声が入ってきた。
「あら、私の教えは無駄だったのかしら? レツちゃんは将来的には貴族のパーティーに潜り込むような依頼を任されることも多くなるはずよ。何のために性別を偽らせたのか分かっているわよね」
その言葉でレツの迷いは吹き飛んだ。どんなところにだって行ってやる。
まだ友達と強さ、どちらを選ぶかの結論をレツは出したわけではないが、師の教えは無駄にするわけには行かない。師匠にお礼を言うべく振り向いて辺りを見渡すが、その姿は見つからない。流石はランク9である。
レツはこれを大会の終わりまで自由に行動させ、それからの結論を待つ意思表示として受け取め、再び前を向き、部屋に入った。
他の選手たちすでにその部屋におり、それぞれ自分の席を決め、観戦と闘いの準備を進めていた。しかし、その様子はそれぞれ緊張した様子である。その中で特に緊張することなく机を囲う二人、ヴェルとマイの下にレツは向かった。ご丁寧にレツのためとしか思えない空席も用意されている。
「おせぇんだよ」
「ごめんごめん。ちょっと準備運動していてね」
軽口を叩くヴェルに苦笑いで返した言葉に対してマイが言う。
「レツは一回戦からだもんね」
そう、レツは一回戦からの出場であった。準備運動をしていたというのも事実である。レツはうんと頷いてから、二人に向けて言う。
「君達に恥ずかしい試合は見せられないからね」
レツなりに本音を伝えたのだが、ぶはっとヴェルが吹き出した。
「ほざけ! 俺達以外眼中にないくせによ? まだまだ術を隠し持っているし俺達と戦うまで隠しますって匂い、プンプン出してるぜ? 実際お前は迷宮組のはずなのに、火属性を一切見せていないしな? お前の力の一端を見せてもらってはいるが、魔力操作と発想力に長けたお前のことだ。何かあるんだろ?」
レツはそれに頷くしかなかった。もちろん相手を舐めているわけではない。この二人相手には手の内を明かした上では勝てないかもしれない。そう思ってのことだ。
頷く際にレツはマイの顔をチラりと覗いていた。以前全力を見せなかったことで仲違いをしていたためである。その不安からである。マイもレツの視線に込められた意図に気が付いたようだ。悔しそうに言う。
「あのことなら忘れてよ。私が弱かっただけ。他人の強さを妬んだって自分が強くなるわけじゃないのにね……」
それにとレツの目をしっかり見て、強気な笑みを浮かべた。
「今ならレツはもちろん、ヴェルとだって互角にやり合える気がするわ」
マイの言葉にレツは微笑んだ。マイの成長への喜びと、戦いへの楽しみからである。
「……そうか、決勝で会おうな」
そこにヴェルがツッコんだ。
「おい待て。決勝で会うのは俺だ」
十六人のトーナメントであるため、泣いても笑っても決勝でぶつかるのは一人だ。トーナメント表を見ると、レツと戦うことになるのはマイかヴェルどちらか一人だけである。レツが言葉を返そうとしたところで放送が入った。
『それでは一回戦出場の選手、舞台に上がってください』
「それじゃあ行ってくるよ。どちらと当たるにせよ、僕は全力を尽くすから」
ヴェルの言葉に対する返事。それを二人に聞こえるように言って、舞台上に向かって行った。
「まずは一回戦。勝たないとね!」
人外に転生してもう一人の主人公(或いはヒロイン)を支えていくような作品が好きだということに、最近気がつきました。
似たような例では色々と少し違うんですけど、ヒカルの碁とかがありますね。
主人公のスペックの高さから爽快感あり無双あり。
もう一人の主人公は成長途中であるため、その成長を楽しみつつ時には苦戦もする。
読んでいて面白いです!
今度私もそういったものを書いてみようかなと思っていたり。




