更なる刺客
半分の心は折った。それでも自らの使命を果たそうとする者には実力行使である。
「それじゃあ君たちは覚悟はできているね?」
言ってミシェルは目を見開き、花びらをまとって突き進む。やっていることは単純なことだが、圧倒的魔力を持つ者がそれを行えばどうなるか。
「ぐわぁああああ」
「がっ!?」
「やっぱ化け物……か!?」
近づいてきただけでその風圧に吹き飛ばされる。こちらの攻撃は周りの花びらに弾かれる。これでもミシェルは手を抜いている方であった。
(彼らは真面目だからこそ残っている。そうした子たちは今後も伸びていくだろう。街のためにも残さないとね)
残っている者はそれでも折れない。ミシェルに勝てずとも、自らの役割を果たそうとする。そんな彼らは当然ある行動に出ていた。
「あいつは止められなくとも、お前なら止められるはずだ!!」
処理しきれなかった警備兵の一人が、クウに迫っていたのだ。
ミシェルはその様子を横目で確認した。だが、心配する様子はない。
「やってみなさい!!」
クウはそう言って笑うと、全身から光が溢れ出す。
「ま、まさか光属性の使い手!?」
光属性は攻めてきているもう一人、ミシェルでさえ四秒しか使えない属性。それを当たり前に扱える者は世界でも数少ない。つまりは、かなりの使い手の可能性が高い。警備兵は警戒を強めていく。
そしてその次の瞬間、相手の姿がぶれた。
「《ライトニング・ラッシュ》!」
(光属性の加速魔法……目で追いかけることができないくらい速いけどクセも強い。直進が基本となるから動きも大回りになる。だから移動先も限られる)
警備兵は身体をねじり、手のひらから後方に向けて青白い雷撃を放つ。
「そこだ!!」
後ろに移動すると読んだ。だが、そこに姿はなかった。それじゃあ何処に? まさかと前を向き直すと、そこには杖の先を向けたクウの姿があった。
「クソッ! ……深読みした!」
光属性の使い手が少ないからこそ、相手は過剰に警戒する。ミシェルから学んだ実力差の誤魔化し方である。
「気がつくのが遅いわ。《ホーリー・ピラー・弐式》」
本来は攻撃対象の頭上から、光属性の魔力を叩きこむ技であるが、クウはミシェルの指導によって少し改変していた。杖の先からそれを放つように。
「くっそがああああああ!!」
杖の先から生成される光の柱によって後ろに押し出される警備兵だが、それでやられるほどヤワではない。
「この程度の威力がお前の全開なら耐えられる! 覚悟し……ろ……?」
本来ならだ。攻めてきていたもう一人が規格外過ぎた。首を軽く叩かれたようにしか見えなかったが、警備兵はそれだけで意識を失っていた。
「きみが最後の一人だ。少し眠っていてね」
クウは遅れてきたミシェルに駆け寄ると頬を膨らませる。
「もし間に合わなかったらどうするつもりだったんですか!?」
クウは内心バクバクであった。実際、《ホーリー・ピラー・弐式》も効いていなかったし、一対一なら確実に勝てなかった。もしフェイントが効いてなかったらと考えると恐ろしい。
「クウなら確実に対処できる。そう信じていただけだよ。誰が戦い方を教えたと思っているんだい?」
紛うことなき本心であった。それが心配する様子のがなかった理由である。
ミシェルはそれにと続ける。
「仮に失敗したとしても、ぼくはどこからでもきみを助けられるようにしていたしね」
その言葉を受け、クウは改めてどのような存在に教えてもらっているかを再認識し、心を落ち着かせた。この人と一緒なら大丈夫だと。
……ともあれ、警備兵は片づけた。ゆっくりしている時間は終わりだ。
「さて、【開闢】のところに向かおう」
「はい!」
そう歩を進めたところで、空から更なる刺客が現れる。それは機械の巨竜だった。機械の巨竜から音声が放たれる。どうやら操縦者がいるらしい。
『あなたたちの野望はここまでです! ランク10を倒すことを目標に作られたこいつを止められるかな!?』
明らかにやばい。そう判断し、ミシェルはクウを守るかのように前に出た。
「下がって」
それからミシェルは自身への変装魔法を解除する。
(この姿は本気を出すということ。それだけの相手なの!?)
相手のまずさに気が付いた次の瞬間には、機械の巨竜は頭から飛び込んできていた。
「きゃっ!」
「隅まで逃げろ! 早く!」
ミシェルは大量の花びらと炎を纏い、機械の巨竜の頭を受け止めるが、ジリジリと押されてやがて弾かれる。
「くっ……!」
この時ミシェルは、もう一つ魔法を使っていた。土属性魔法で倒れていた者たちを隅に寄せていたのだ。全力での対応ではなかったのだ。
クウも避難を完了させている。今のは戦いやすい環境を作るための時間稼ぎ。ここからが本気での戦いとなる。
「ランク10を倒すことを目標と言ったね? その力、ぼくが試してやるよ……!」
ランク10に辿り着いたということもあり、中々に好戦的なミシェルであった。
環境を作り上げたミシェルは、炎と雷と花びらを纏い、今度は自身から機械の巨竜に近づいていく。
『【桜龍】さん。是非その力を私に見せてください!!』
機械の巨竜は反撃する様子はない。ここに打ち込めとばかりに両手を差し向けていた。
「面白い……! 挑発に乗ってやるよ!!」
三つの属性の纏った拳を何度も何度も何度も、その両手に打ち込んでいくが、全く効く様子が見えない。
『そんなものですか!? ランク10は!?』
聞こえるのは操縦者の笑い声。機械の巨竜の顔に表情はないように見えるが、何となく笑っているように見えた。
「それならこれはどうだ!!」
ミシェルは直接殴り込むのをやめ、発動属性を切り替える。両手を機械の巨竜に向けると、そこから大量の水が渦を作りながら放たれ、機械の巨竜を飲み込んでいった。花びらもついでかのように含まれていた。
『効かぬ!! 効かぬ!! 効かぬ!!』
やがて渦から解放されるが、そこには傷一つない様子の機械の巨竜が。
『それでは終わりにしましょうか!』
ランク10の攻撃は受け切った。もう研究価値もない。操縦者は遊ぶ意味はもうないと判断し、トドメを刺すべく動こうとする。しかし、動こうとして伝わってきたのはガクンという振動だった。
『……動けない!?』
大量の花びらと氷によって地面に抑えつけられていたのだ。
「単純な力でその守りを突破することはぼくには不可能だ。認めよう。でも、ぼくが評価されているのはこの圧倒的応用力。ランク10をあまり舐めない方がいい」
『貴様ー!!』
ミシェルの言葉に明確な怒りを見せる操縦者。
『舐めない方がいいのはこちらのセリフだ!!』
ガシャンガシャンという音を立てながら、機械の巨竜の各所が開く。そしてそこからミサイルが放たれていく。
『動かずとも攻撃は出来るのだ!』
「……そうか」
対してミシェルは呆れたかのように短く呟いただけだった。そして走り出す。
『フハハハハ! このまま捕まればいいのです!!』
「ミシェルさん!!」
ミサイルが次々ミシェルに命中していく。操縦者の高笑いは止まらない。煙が舞い上がる。その様子にクウも思わず叫ぶが、杞憂だったようだ。
『なぜそこにいる!?』
ミサイルが命中したはずのミシェルは、機械の巨竜の背中の上にいた。
「あの程度の威力、二属性で十分だったな。それじゃあ覚悟はいいかい?」
操縦者がいることによって、機械の兵隊のような無力化は避けられたが、そこには新たな弱点が誕生していた。それは操縦者自身。
「……ここかな?」
ミシェルは搭乗口をこじ開け、そこで震えていた操縦者の男の意識を奪った。
機械の巨竜は停止した。飛び降りたところでクウを呼び戻し、今度こそ建物の中に向かおうとすると、建物の扉が開く。そこには銃口を向けた一人の人影があった。
「……ラスボスのお出ましってわけか」
そこにいたのはランク10の一人、【開闢】であった。
「やたらと強いのがやってきてると思えばランク10とはね。それじゃあ……死んでくれ」
メンテやら用事やらその準備で遅れました。出先で宿泊先代わりにネットカフェで休むことにしたのですが、ネットカフェのパソコン画面の大きさに驚きます。




