冒険者ギルド
冒険者資格を取得した者の八割は、冒険者ギルドに所属する。
冒険者は保証を受けやすいというが、こうした保障は冒険者ギルドを介したものがほとんどであるためだ。また、冒険者ギルドに入っていると稼ぎやすさが違う。
例えば、ただ魔獣を狩って持ってきただけでは、素材分の稼ぎにしかならない。
だが魔獣の存在に困っている人が倒してくれと依頼を出していた場合はどうだろうか。その素材分の他に、謝礼金が発生する。
こうした依頼をまとめることも、ギルドの役割の一つであり、その依頼を受けられるのがギルドメンバーというわけだ。
そうしたこともあって、資格を取得した新人冒険者たちは、より良いギルドに所属するための短い就活を、資格を取得したその日中に始めるのである。
ちなみに所属しない残りの二割の大半は、就活に失敗した人である。
レツも冒険者ギルドの一つ【月夜の騎士】に、入団するべく来ていた。
お洒落な名前をしているが、ギルド名と所属者の能力はあまり関係なかったりする。
ギルドの建物の内部は半分は酒場のようになっており、賑わいを見せていた。
普段なら依頼に成功した冒険者たちが、その稼いだ金を浪費して騒いでいるわけだが、今日はその賑わいが少し違う。
「さて、今年は即戦力の新人は入ってくるかねぇ。強けりゃウチのとこにきてもらうしかねぇ」
「最初は弱い位がよくないか? その分育てる喜びってもんがあるし、抜かれても悔しさじゃなくてうれし泣きになるぜ。弱かったら俺達がもらうからなぁ」
「うっ……みんな本気だ……。うちのパーティー、人材不足なんだよなぁ……、負けないようにしないと……」
新人を見定め、そして勧誘するために目をぎらつかせていたのである。
新冒険者たちの姿を見た彼らは、レツと男女二人で合計五人が入団希望で入ってきた中、一人に注目していた。
「あのゴーグルあそこにいるってことは……! もらった!! さっき弱い位がいいとか言ってた奴! まさか今更掌返したりはしねぇよな!?」
「くそっ! 男に二言はねーよ! 他の奴を選んでやるよちくしょう!」
「彼が入ってくれれば……!」
そう、レツである。
レツが資格取得前からお世話になっていたのが、このギルドだったのだ。
非正規冒険者ながら一人で狩っている姿も目撃されており、その実力はランク3相当ではないかという噂も立っているくらいである。期待の大型新人だ。
酒場になっていないもう半分こそがギルドの中枢となっており、そこに受付もある。
受付で他の冒険者が入団テストの説明を聞く中、レツは三秒で内定をもらっていた。
だがそれに不満を持つ者だっている。残りの新人冒険者達だ。
「どうして彼だけすぐに内定をもらっているのですか?」
「そうです! 納得いきません!」
「同じ試験を受けてきたはずです!! 身内贔屓ですか!?」
「こんなゴーグル以外目立たない奴がありえないです!」
この状況に受付はもちろん、レツもあたふたしていた時、ギルドの奥にあった扉の方向から、女性の怒声が聞こえた。
「静かにしろ!!!!!」
一斉に声の聞こえた方向を見て、全員が固まった。
何せそこに居たのは……。
「私はギルドマスターのカマルだ!」
ギルドマスターその人であった。
まるで月のように光を反射して輝く美しいブロンドの髪を後ろで束ね、それを写す湖のような澄んだ碧眼が特徴的な女性騎士である。
それからカマルは、レツ達新人冒険者たちに向かって嬉しそうに歩みを進める。
「まあ知っているといった反応だな! 私も随分と有名になったな! はっはっはっ!」
美しい容姿にランク8のエリート冒険者。そして国内トップスリーに入るギルドのマスターときたもんだ。前々から有名ですよと、その場にいた全員が思ったけど口には出さない。
そしてカマルは新人冒険者たちの前に立つと、面倒くさそうに言う。
「ま、こうなるのは正直目に見えていたよ」
それからだ。挑発するような笑みを浮かべた。
「だからギルマス権限で試験内容を変えることにした! 新冒険者たちは全員私に着いてくるように!」
カマルは最初に自分がいた場所へ彼らを導いた。
そこは訓練場だった。
ご丁寧に観戦席まである。というかギルドメンバーもいつの間にか着席済みである。
「見せてくれよー! お前らの実力!!」
「楽しみだぜ!!」
新人を見るためであることはもちろん、何か面白そうな気配がしたからである。
(((さあ、ゴーグルの実力見せてもらおうか!!)))
一方でカマルはマイペースだった。
「ずっと掃除して待っていたよ! 確実に使うことになると思ってね!!」
自分の予測が当たったことへのドヤ顔は隠さない。
しかし、流石にギルドマスター自ら掃除は恐れ多かったのか、カマルの想像に反して静かになってしまった。
この状況にカマルはコホンと咳払い。それから仕切り直す。
「さて、ここまで連れて来たからにはお察しの通り、模擬戦をやってもらうぞ! ルールは1VS1で的に攻撃を当てられた方が負けだ。的はそうだなぁ……」
少し考えたと思えば、すぐに左指をパチンと鳴らした。
すると新冒険者たちの胸元に、直径10センチ程度の青い円が描かれた。
「まあ知っているとは思うが、これは一定以上の威力の衝撃を受けると赤くなって攻撃のヒットを教えてくれるやつだ」
それを受けた新冒険者の二人が反応する。
「対象を取る動作もなしに一瞬で全員に!?」
「流石です! これが世界有数の付与術師……!」
それに気をよくしたカマルはさらに付け加えて説明をする。
「フフフ、それだけじゃないぞ! 君たちが自分の武器を使って本来の力を出せるように、身体の強度も上げといてやった。思う存分戦うがよい!」
「これを名前も言わずに……!?」
「流石です! 二種類同時にかけるなんて!!」
実際に凄いことであり、もし誰にでもこんな芸当ができるのなら、模擬戦は武器の持ち込みが基本となっているだろう。
調子に乗って自慢するように説明したにも関わらず向けられる尊敬の眼差しに、まあなと少し頬を紅潮させ視線を少し逸らしながら、カマルは最後にもう一つだけ付け加えた。
「最後に対戦カードについてだが、レツくんに全員を相手してもらおうと思っている!」
「「「「えー!?」」」」
衝撃を受ける新冒険者四人。
実力を証明するためにここに連れてこられたのは分かっていたが、1VS1とはいえ一人で一回ずつ四人を相手してもらうのは想像していなかった。
ここまで実力差があるというのか!?
彼らが困惑や怒りなど様々な感情を見せる中、レツは至って冷静であった。
そんなレツにカマルは確認する。
「イケるよな?」
「まあ、やれると思います」
淡々と言うレツのその姿は、彼らの怒りに油を注ぐ。
一人の新冒険者の男が前に出てきた。
「いいぜ、やってやんよ!」
それを見たカマルは、楽しみを隠し切れない様子だった。
「フム。どうやら順番はこちらで指定するまでもないようだな。双方が白線の上に立った後、私のはじめの合図で開始だ。それじゃあ位置につけ」
いつの間にか引かれていた白線の上に二人は移動、それから武器を構える前に名乗り合う。一般的な模擬戦のルールだ。
「俺はルークだ。よろしく頼む」
怒りを見せていたルークではあるが、冒険者の誇りとして挨拶はそつなくこなす。
それに少し安堵し、レツは頬を緩めた。
「僕はレツ。こちらこそ」
そしてルークが剣を、レツが短剣を構えたところで――。
「はじめ!!!!!」
戦いの幕が切り落とされた。
22時22分投稿を狙っているけどなかなか狙えなくて悔しい……
気が付けば時間が過ぎている……