表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/53

少年レツ

 これはレツが冒険者試験を受けるまでの話だ。



 レツは幼少期から周りに可愛がられることは多かったが、その頃はまだ気にしてはいなかった。

 気にするようになったのは、同世代の子が思春期を迎え始めてからだ。


 レツはその容姿から、同性に告白されることも多かった。何なら学び舎を共にした同性ほぼ全員に好かれていたと言ってもいい。

 思春期であるレツにとって、ただでさえ同性から異性として好かれて苦痛を感じていたのに、異性からは嫉妬の嵐だった。陰湿ないじめも受けてきた。


 もちろんレツだって対策を怠ってきたわけではない。

 ある時は眼鏡でその端正な顔立ちを隠そうとした。


「もしかしてキャラ作り?」

「ありえない。きもい」


 お洒落の一部として受け取られ、悪口雑言を浴びることとなった。


 ある時は髪を非常に短くした。


「その髪どうしたの!? もしかして失恋!?」


 道行く人々に心配されるのはまだいい。


「レツちゃんを振った奴はただじゃおかねぇ!」

「振った奴を探し出せ!!」

「あいつじゃねぇのか? ほら、あいつあの時?」


 それをきっかけとして、魔女狩りのようなことまで行われ始めてしまった。


 ある時は家から出ないことにした。


「レツちゃん、助けに来たよ」


 監禁と勘違いした人が家に攻めてきた。


 このようなことが続き、自分だけでなく他人にも迷惑をかけ続けてきたことで、レツの心身は確かに傷ついていった。

 時には自分を呪ったりもした。


「クソッ! どうしてこんな容姿なんだよ!? もっと声変わってよ!! 身長も伸びろ!!」


 流石に事態を重く見た両親は遠方の地まで引っ越すことを決め、引っ越してからレツは姿を見られないように引きこもり生活を続けた。


 そんなレツが冒険者を目指すようになったのは、引きこもり時代に目にした新聞の一面だった。


《五人目のランク10冒険者誕生! 【開闢】のミストル!》


 ランク10は最高位である。物騒な例えではあるが、ランク10冒険者となると一人で一国を潰せると言われているほどだ。

 そのランク10になったというだけで人々の憧れの的なのだが、レツが注目した点は違った。


『ミストルは魔銃を利用した魔導弾で、ランク10まで上り詰めた。これまで魔銃は直接行使する魔法に劣るとされ研究は放棄されてしまったが、彼がランク10に上り詰めた実績とその利用方法を参考に、再開発が決定した。魔銃が一般に普及する日は、そう遠くないかもしれない。』


 そう。ランク10になったことによって、弱いとされてきた武器が認められるようになったのである。

 ランク10冒険者の影響力は非常に大きい。この瞬間にレツの夢が決まった。


「僕は冒険者になる!」


 最初は引きこもりの息子の発言に戸惑う両親だったが、その熱意と息子の置かれた状況から、強く背中を後押しすると決めた。

 それからは勉強の毎日だった。


 レツが最初に始めたのは、透明化魔法ステルスの習得だった。

 《ステルス》は誰もがどれかしらに適性を持っている火、風、土、水の基本四属性に分類されず、初心者には習得難度が非常に高い魔法だ。


 普通なら自分の適性属性を使いこなせるようになった頃に習得を考えるような魔法だが、隠れて行動できるようになるために、適性属性よりも優先してレツは習得しようとした。

 夢を全力で応援してくれる両親のおかげで参考資料には困らなかったことと、一つの魔法に集中したことによって、普通なら半年かかるところを三ヶ月で習得できた。


 次に攻撃手段を身につけていく。

 冒険者でなくとも魔獣狩りは可能だ。その場合は、怪我や死亡時に自業自得として何の手当ても出ないが、レツとその夢を応援する親には関係ない。

 素顔がバレにくいようにと父にプレゼントしてもらったゴーグルを身に着け、レツは外に繰り出す。


 最初は低ランク魔獣のスライムを相手に練習をしていく。

 レツはスライム相手に、検査結果によって判明した自分の適性属性の魔法を放つ。


「《ウィンドカッター》!」


 風の刃で相手を切り裂く風属性の初級魔法。基本四属性魔法を習得する前に《ステルス》を習得したレツにとって、習得は容易いことであった。

 慣れてきたときには、少しランクの高い魔獣に挑戦することもあった。


「《トルネードショット》! ……効かないの!? やばいやばい!! 《ステルス》! 《アクセル》!」


 当然勝てないこともあったが、透明化と加速の併用で逃げることは容易であり、大した怪我をすることもなく魔法の実力を上げて行った。


 そしていつからかは、お金稼ぎも始めた。武器を買うためにだ。

 始めたキッカケは、冒険者ギルドが魔獣の死体を買い取ってくれることを知ったことである。武器は冒険者になる以上欠かせないものであり、丁度欲しくなってきていたタイミングだった。

 だが、正規冒険者でない者の無謀な冒険を防ぐために、正規冒険者以外からの買取価格は適性価格の半分程度だ。


 そのため時間はかかったが、レツはようやく武器を買えるだけ稼ぎ、 《ステルス》と組み合わせて使えそうな短剣を自分の武器として選んだ。こちらもやはり魔獣狩りでスキルを身につけていく。

 実はこの時点で一般的なランク2相当の実力を身に着けていたりした。


 しかし、冒険者試験では実技だけではなく、ペーパーテストに合格する必要もある。

 そのため、強さに満足してからは、座学にも取り組み始めた。


 外に出ては練習、家では座学に励むという日々を繰り返し、冒険者を目指し始めてから2年。齢18になったレツは、ついに年に一度の冒険者試験に臨む。


 世界最高位の冒険者となり、男であることを知らしめるために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ