ハルマ
ハルマ自身が強くなっただけならまだよかった。
天井にそして壁、それらが失われたことで部屋と外の境界がなくなった。そのため、空中には翼を持った魔族。周りには見張りをしていた魔族と、四方八方から囲まれていた。
「……ぼくも少し無理をしないといけなそうだね」
そうミシェルは苦笑い。それからギルドマスター達に向けて続ける。
「しばらくはぼく一人でアイツを抑え込む。それまで周りの魔族を任せられるか」
「「「もちろん!!」」」
ギルドマスター達は即答だった。ミシェルがハルマを一人で相手をしようとする中、こんな雑魚たち相手にできなくてどうする。
「巻き込まれそうになったら避けてくれよ! それじゃあ行くぞ!」
「「「おう!!」」」
ミシェルの掛け声に応え、それからそれぞれの相手を対処するべく全員同時に動き出した。
「空中は私に任せておけ! 《蒼穹の六枚翼――ファーマメント・セラフィム・ウィング》」
カマルは魔法により六枚の翼創造、そして空中を高速で飛び回りその翼で敵を切り裂いていく。
「邪魔はさせねぇよ! 《煉獄の黙示録――アポカリプス・インフェルノ》」
レオは巨大な絨毯のような炎で魔族を押しつぶしていく。
「二人にカバーできない範囲は私ができる範囲で何とかするよ。《侵食の銀世界――スノー・ホワイト・イクリプス》」
エイルは全員を補助するべく、対処できなそうな範囲を凍りつかせていった。
ギルドマスター達はミシェルを全力でサポートするべく、それぞれの持つ最強クラスの技を使用した。
ミシェルもギルドマスター達の活動を蔑ろにしないために全力だ。ハルマに強烈な一撃を与えるべく突き進むミシェルの周囲には電撃が走っていた。実はこの時のミシェルは、人間には不可能と思えるようなことを平然とこなしていた。
「属性魔法変化を同時に二種類!?」
通常、属性魔法を使う場合はそれぞれの属性に見合ったものが生み出す、または操作できるだけだ。風なら風、火なら火と……。そこでハルマの言った属性魔法変化とは、属性魔法からまた別な物質を生み出すことである。ミシェルは土属性を花に、風属性を雷にと、二種類を変化させていた。
属性魔法変化は消費魔力量も大きく集中力も必要。ハルマを驚愕させるには充分であった。
「確かに驚きこそはしたが、勝敗には関係ない!」
ハルマは背後の巨大な元々城だった腕を操り、ミシェルを叩き潰そうとする。
そしてミシェルがその腕に潰されるかのように見えた寸前、その腕の動きが不自然に止まる。
「まさか……!? 土属性の力で無理矢理動きを止めただと!?」
この腕は石で作られていることから、理論上は可能だ。しかし、ハルマ程の力を持つ者の操作しているものに干渉するのは、普通の人間に可能だとは思えなかった。
ハルマはミシェルを向かい打つために両手に紫色の瘴気を纏いながらも、思わず問う。
「貴様一体何者だ!?」
ハルマの問いにミシェルはニヤリと笑った。
「そういえばまだ名乗っていなかったな」
それから拳と拳がぶつかり合う瞬間に名乗った。
「ぼくはミシェル! 五人しかいないランク10の一人!」
「ランク10だと……!?」
ハルマの目が驚きに見開かれたその瞬間、花と雷を纏っていたミシェルの腕に炎が追加される。ミシェルは驚いた隙をつき、もう一属性追加して威力を増強したのである。ハルマは対処が間に合わず後方に飛ばされる、花と雷そして炎の追撃を受けながら。
戦闘態勢を取りながら二本脚で着地するハルマに向けて、ミシェルは至って真面目な顔で言う。
「人間最強と呼ばれるランク10が何故ここにきたか、その意味は理解しているな?」
その意味は当然すぐに理解した。迎え撃つぞという人間側の警告。だがそんなものは関係ない。自分達は魔王の指示に従うだけだから。
ハルマにとって今重要なのは、最初の言葉をおうむ返しされたこと。
「人間ごときが我の言葉を真似るだと? 愚弄しおって!!」
ハルマの纏う紫が漆黒に変わっていく。明らかにこれまでとは違う。周囲の空気がピリピリしたものに変わっていく。
そしてハルマがミシェルを睨んだ次の瞬間だった。
漆黒を纏ったハルマの拳がミシェルに振るわれていた。あまりの早さにミシェルも防御が限界だった。
(……流石にこのままじゃまずいな)
ミシェルは苦笑い。
ただでさえ三属性同時発動だというのに、単純なパワーで押されている。その上、相手はフィールドも利用できる。ミシェルの周囲には無数の刃――城だった何かが浮かんでいた。
そして一斉に襲い掛かり、ミシェルのいた位置でそれらが交錯し、粉塵と変わっていく。
「ちっ、抜けたか」
この時ミシェルは肉体を完全に花びらに変換することで、何とか抜け出すことに成功していた。しかし、これは非常に負担の大きい技。常に発動できていれば、物理攻撃を完全に防ぐことが可能であるが、世の中そううまくはいかない。
(本格的にまずいな……。さて、どうするか)
ミシェルは発動属性を切り替え、フィールド利用を防ぐべく周囲を凍らせる。この間も向かってきているハルマの動きを鈍らすこともできないかと、ハルマも攻撃対象にするが全く効いていない様子であった。
「そのような攻撃効かぬわ!!」
それからハルマは漆黒の無数の弾を放ってくる。フィールド利用を防いだとしても遠距離攻撃ができるというアピールだろう。
だがどちらか片方だけなら何とかなる。ミシェルは炎の壁を作り出し、それを全力で防御していく。
防御されたハルマはならばとその場に漆黒の球体を留まらせ、ミシェルに殴り掛かる。この時もミシェルは炎の壁で守られているわけだが、炎の壁は全く効いていない様子だった。
炎の壁と花と風で直接攻撃をミシェルは受け止めるが、状況の深刻さは変わらない。恐らくあの漆黒の球体が襲い掛かってくるだろう。
このままじゃ勝ち目がない。ミシェルは覚悟を決めた。
「今から十秒後だ。神の領域を見せてやる」
「無駄なあがきを」
ミシェルの言葉を鼻で笑い、漆黒の球体を撃ち込んだ。そしてミシェルに命中し爆発を起こしていく。
「うわぁぁあああああ!!」
今度こそミシェルにダメージが入ったようで、爆発から解放されたミシェルもズタボロで立っているのもやっとの様子だった。
勝利を確信したハルマだが、ミシェルがまだ諦めていないのが分かった。何かを呟いている。
「――八、九」
それはカウント。ミシェルが何をしようとしているのか、それは先ほどの発言を考えれば分かる。
「神の領域!? そんなものがあるわけない! 心をも破壊してくれるわ!!」
今度こそミシェルを破壊し尽くすべく、再びミシェルに向かうハルマだったが……。
「十!!」
「なっ!? ぐおおおおおおおおお!?」
ミシェルのカウントが終わると同時に、ハルマは唯一残されていた部屋の床を派手に削りながら床を転がる。
さっきまでこいつはボロボロだったはず。神の領域が本当にあるとでも言うのか? 隙を見せないようにすぐに立ち上がったハルマが次に見たもの――。
「この姿は四秒しか持たない。キミが永遠に感じられるような四秒間にしてあげるよ」
全身から白く強い輝きを放ち、巨大な翼を持つミシェルのその姿。神と形容するしかなかった。




