魔族討伐作戦
レツがミシェルと出会ってから一週間。魔族の討伐作戦が始まろうとしていた。
討伐作戦において冒険者の役割は大きく二つに分かれている。一つは魔族の拠点に直接乗り込む前線部隊。もう一つは街を魔族から守る防衛部隊である。
基本的には高ランクの者が前線部隊に参加することになるのだが、ミシェルの希望によりレツも前線部隊として参加することになっていた。
(どうしてこんなことにー!?)
他の前線部隊の参加者を見てみよう。最初にランク10冒険者のミシェル。次に【月夜の騎士】ギルドマスターカマルを始めとして、ヴァーユ現最強のギルド【太陽の使い】のマスターであるレオ、そしてトップスリーを争っているギルド【迷える戦乙女】のマスターのエイルに、それぞれのギルドの有力冒険者二人ずつという街が誇る冒険者達。他にも、自分から参加を希望し遠征してきたランク7以上の冒険者も何人か。
レツの場違い感はとてつもないものである。現に彼らからはどうしてこんなのがここにという視線を向けられている。ミシェルが睨みを利かせてなかったら絡まれていただろう。
前線参加者が揃ったところでミシェルが作戦の概要を伝える。
「まずは集まってくれたことに感謝するよ。今日の作戦についてなんだが、基本的に敵の王にはぼくとレツで相手をする。他のメンバーにはその補助をしてほしい。恐らく上級魔族が何体かいるだろうから、そいつらの処理をしてほしいんだ。処理が終わってからぼくたちのところに加わってほしい」
作戦の概要を伝えられたことで、レツのことを黙っていたメンバーもいよいよ我慢ならないようだった。
「どうしてそいつが選ばれてるんだよ!? 明らかに非力だぞ!?」
この作戦を知っていたレツはやっぱりこうなったかとこめかみを押さえる。自分を選んだミシェルに説明責任は果たしてもらおう。
「それなんだがな、レツはぼくの弟子だ。ステータスは低くとも色々叩き込んだ。だから選ばせてもらったよ」
「「「えええええーーーー!?」」」
とんでも発言だった。全員が驚きの声を上げていた。レツ自身もである。
「どうしてお前まで驚くんだよ!?」
「いやだって弟子である記憶はないし……」
確かに色々教えてもらったとはいえ、この作戦が終わるまでの関係だ。弟子であるとは思っていない。一方ミシェルは本気で弟子と思っていたようで、フッと笑いをこぼしていた。
「恥ずかしがることはないさ。何かを教えた……この関係性は師弟と言えるだろう」
そうなのか? いや、確かにそうかもしれない……? しばらく考えるが、ランク10の発言の前では、全員から弟子扱いを受けるのは確定だろう。考えるのはやめよう。
ミシェルの弟子発言以降はレツを嫌悪する視線は消え、滞りなく説明が行われた。
そして、魔族たちの拠点の前に前線部隊は来ていた。
レツは魔族の拠点を見て、思わず感嘆の声を上げる。
「魔族ってこんな立派な城を作るのか」
その言葉を聞いてミシェルが解説する。
「魔族とは基本的に争うことはないから知らなくてもおかしくはないか。人型を取るような最上級魔族はこのように城を作ることも多い」
簡単に解説を終えたところで、城の前に向かいながら付け足すように言った。
「そんな城もぼくの前では一瞬しか持たないけどね」
それからミシェルは城に右手を伸ばした。それから一瞬だった。
城の前面に亀裂が入ったと思えば、城の三分の一をあっという間に砕いてしまった。
一体何をしたのだろうか。この場にいた全員がランク10の力に驚愕する。ちなみにミシェルがしたことは、花びら状にした魔力を城の内部に潜り込ませ、それらを爆発させただけである。
しかし、ずっと驚いている余裕はない。城が半壊したことによって、溢れるように魔族たちが出てくる。
「さあ、始めようか!」
「「「おう!!!」」」
ミシェルがそう走り出すと、全員がそれに続いた。
ミシェルは王がいるであろうところに向かって突き進む。レツもそれに続く。通常ならあっという間にミシェルとレツは引き離されてしまうだろう。だが、そうなることはなかった。
この時レツはミシェルによって与えられた力、肉体の魔法化により風属性魔法に近い状態になっており、これまでの比ではない加速ができるようになっていた。そのことにより、ステータス差がありながらもミシェルに続くことができていたのだ。
溢れ出てきた魔族の相手をする前線部隊の参戦者も、そのレツの姿に舌を巻いていた。
「あいつ、弱そうに見えたけど魔法化の領域に至っていたのか! ランク10の弟子っつーのは伊達じゃないな!」
レツへの評価を改めだす参戦者であるが、レツが続くことができているのは、そんな彼らの存在が大きい。
ミシェルが前方の敵を蹴散らしてくれているおかげで真っ直ぐ進むことができるが、どうしても倒し漏れた魔族が出てくる。それらを他の冒険者が処理してくれているため、走ることにだけ集中できているのだ。
そのおかげで、ミシェルたちは王がいる部屋にすぐに辿りついた。
その部屋には玉座に座る魔族が一人いるだけだった。その魔族は人型を取っており、見た目だけなら完全に人間だ。
ミシェルたちを見た魔族は座ったまま口を開く。
「思ったよりも速いな、人間。我は魔王直属の四天王の一人ハルマだ。どうして我がここに城を築いたか、その意味は理解しているな?」
「人間への宣戦布告だろ? それよりも……」
この時、ミシェルは穏やかではなかった。ミシェルでさえ取り乱すような存在が口にされた。
「魔王だと!?」
魔王、歴史の中にも何度も出てくる絶対的な力を持つ魔族。ここ数百年は誕生していないはずだった。それが今存在し、人間に宣戦布告したとなれば、もう国だけの問題ではない。
「如何にも。これは侵略作戦の最初の一歩。我らの邪魔はさせぬ」
言い終えると同時に、部屋中に魔法陣が展開される。そしてそこから上級魔族が召喚された。
ハルマは笑いながら立ち上がる。
「さあ蹂躙を始めようか。人間、お前が強い力を持っているのは一目で分かった。だが、これだけの数と我自身を相手にして、立っていられるかな」
「くっ……」
ハルマの言う通りだった。ただでさえ人数差で厳しいのに、一対二の予定で連れてきたレツを守りながら戦う必要がある。
「ごめんなさいミシェルさん」
「大丈夫、何とかなる」
自分が状況を悪くしていることを理解して謝罪するレツに、そう声をかけたミシェル達の周りに花びらが舞い始めた。
「少し耐えればいいだけだから」
それからは魔族たちの猛攻が始まる。防戦一方だった。
ただの上級魔族の攻撃なら花びらだけで防げるが、ハルマの攻撃はそうはいかない。
ハルマの拳はランク10が操る強固な花びらを意図も容易く突き破る。まるで普通の花びらのように。ミシェルは自身の身体で直接防御する。
「なかなかに人間離れした力を持っているな。数で削るのが申し訳なくなってくる」
「心にもないこと……」
「いいや、本心さ。魔族という立場でなければ、ライバルでありたいくらいだよ」
そうは言うが、ハルマは嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。ハルマには軽口を叩く余裕もあるようだった。
この現状にレツは耐えられない。自分のせいでランク10を失わせるわけにはいかない。
「僕はここから離れます」
「待てレツ!」
ミシェルは止めるがレツは止まらない。レツが花びらの中から飛び出そうとしたその時だった。
光を纏った剣が魔族を切り裂いていく。真っ赤な炎が魔族を飲み込んで行く。様々な色の光線が魔族を貫いていく。
「やあミシェル様にレツくん。ミシェル様の命を受け、貴方たちが戦いやすい環境を我々が作りに来た」
剣を持った女性カマルが最初に声をかける。
「おいおい代表面するなよカマル。最強は俺達のところだぞ」
それに炎を纏った男、レオが続く。
「今は雑魚処理に集中した方がいいのでは?」
そんな二人に呆れるのは、身体の周りにふよふよと魔力の塊を浮かべた女性、エイル。
街のトップスリーギルドそれぞれのマスターが、そこに来ていた。




