ここから始まり
目を覚ますと、真っ白な景色が広がっていた。これは天井だ。
つまり今僕は、仰向けに横になっている。なぜだろうか。
……思い出した。僕は問題用紙をみたときに、そこに書いてある文字が何なのかよくわからなかったのだった。一瞬でパニックになり、目の前が暗くなっていったところまでは覚えている。恐らくその後、病院に運び込まれたのだろう。
そんなことを考えていると、見慣れた顔がベットとベットの間を仕切るカーテンの隙間からのぞいた。しかしすぐに慌てた様子で病室を飛び出した。母さんだ。
「……なんですよ!目を覚ましているんです!」
この声も母さんだ。
「よかった。このままになってしまうのかと心配でした」
聞きなれない男性の声も聞こえる。
すぐに母さんと医者らしい男性がカーテンを勢いよく開けた。
「本当に良かった!ずっとあなたが目を覚まさないんじゃないかと思って!いきなり倒れたっていったい何があったのよ!?」
「気分はどうですか?体におかしなところはありますか?」
答える隙もなくいろんな質問をされると混乱しそうになる。どこから答えていいのかわからない。
「お母さん、落ち着いて。まずは私から浩介君に質問させていただけますか?」
医者はいたって冷静に、ゆっくりと僕に話しかけてきた。
「浩介君。君は2月の10日の朝9時ごろに突然倒れたんだ。それは覚えているかい?」
「はい、覚えています。」
「何か倒れる前兆のようなものはありましたか?」
その質問に答えるためには、このときまで誰にも話していなかった記憶力の低下について親がいる前で話さなくてはならない。どんな顔をされるのか予想もつかなかったがこうなってしまったらすべて話すしかない。というより、本当は誰かに話したかった。不安でしたなかったから。
「……これがこの一週間で僕に起こったことの全てです」
今までのことはすべて話した。いや、本当にすべてだと良いのだけど……
しばらくの間、医者は腕を組んで何かを考えている様子だった。名札には「脳神経外科医 内田 大地」と書いてある。今はなぜか文字も読めるし、意味も分かる。それはすでにさっきの話の中で彼にも伝えてある。
母親は何も言わないが、ショックは受けているようだ。
突然、内田先生が思い切った口調でこう言った。
「医者としても信じがたいですが、それは若年性アルツハイマー病かもしれません」