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か細い記憶の片隅で  作者: ハーモニー
発症
1/4

初期症状

2月4日 雪

 外では雪が降っていた。寒いだろうから厚着をして出かけなくてはならなかった。冷静に考えてみると、厚着をするという目的を果たすためにはたくさんの複雑な動きを組み合わせなくてはならない。例えば今着ているものを順番に脱ぐ。タンスの取手に指をかけ、引き出しを開ける。取り出したものを順番に効率よく着ていく。寒さの度合いに合わせてマフラーや手袋を身に着ける。

 これらは当たり前のことだ。できて当たり前。

 でも、それが当たり前ではない人がいることを忘れないでほしい。特に僕のような病気では、見た目に異常がないだけに勘違いされがちだ。だから怖いんだ。外に出るのも、生きていくのも。

さっきまでできていたはずのことがいつの間にかできなくなってしまう気がして。大切な人たちの顔も名前も忘れてしまうような気がして。

 それでも僕はまだ生きていく。まだ、覚えているから。


母親:三浦 葵  父親:三浦 純一郎  弟:三浦 浩太  親友:高橋 たっちゃん


 大丈夫。まだ覚えている。明日も絶対覚えている。


――――――――――――――――――――


 その日からテスト一週間前の期間に入った。僕にとっては早く学校が終わるし、最高の期間だ。どうせ勉強をするのはテスト本番の前日からなのだから、遊ぶための時間が増えるということだ。

「浩介!今日お前んち行っていいか?」

 友達の高橋が声をかけてきた。

「いいけど、母ちゃんいるからばれないようにな。いくらなんでも、あまりこの時期に遊んでるって思われたくないんだ」

「天才も大変だね~」

 高橋とは今年から知り合ったのだが、こいつは人との距離の取り方がとてもうまい。僕はあまり人と関わるのが好きではないのに、高橋と関わるのは何も苦ではない。

 さっき勉強を始めるのはテストの前日からと言ったが、それは僕にやる気がないからではない。それで事足りてしまうからだ。高校の定期テスト程度の暗記量であれば3時間ほどで全範囲を覚えられてしまう。簡単なことだ。

 もちろん、親もそんな僕に期待している。口には出さないが、それは明らかだ。だからこそ、それが僕の唯一の悩みの種でもある。高校2年生最後のこの定期テストも主要教科は満点を取らなくてはならない。そんなに難しいことではないが。

 そういえば、先生に提出しなくてはならないプリントがあった。

「ちょっと職員室に寄っていくから、先に門まで行ってくれ」

「わかった!」

「あ、今日って何日だっけ?提出日の欄に日付を書き忘れてた」

「2月3日だよ」

「了解、ありがとう」

 そうしてプリントを先生に提出し、僕たちは家に向かった。その途中で話題になるのはやはりテストの話だ。高橋は勉強をしなくていいのだろうか……。

「もう学年末テスト1週間前か~早い一年間だったな」

「1週間前か…… あれ?今日って何日だっけ?」

「?2月の3日だよ?」

「そっか、じゃあ10日から始まるんだな」

「ああ……そうだね」

 これが初期症状だった。


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