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車内めし。  作者: ごむたいや
1/1

天ぷらうどん


 あー腹がへった。

 何か手軽に食えるものは……うどんか。

 まあ、適当にかけうどんでも作るか。

 ……ただのうどんって言うのもあれだな……よし、ここは一つ、天ぷらも作ってしまおう。

 卵を氷水でといて粉に混ぜ、だまが出来るくらいにざっくり混ぜて、エビに卵、いかゲソ何かをあげていく。

 ちょっと味見で、しし唐の天ぷらをかじる。

 う~む、べっちゃとしない、良いサクサク加減に上がった。

 後はスーパーで買いだめしていたうどんを茹でて、温めておいた出汁に入れて天ぷらを盛りつければ、ハイ完成。

 さてと……早速頂くとするかな。


 ……何だよ、こんな時に電話か。

 相手は……美里か。

 あ、美里って言うのは俺の彼女な。

 さて、何の用なんだか。


(さとし)、お願い! ここにきて助けて欲しいの! 場所は大正町のショッピングモール!」


 ……切れやがった。

 こちらのことを何も聞かないとは、余程緊急の事態なのだろう。

 しかも、里美は機嫌を損ねるといろいろと面倒だ。

 くっ……せっかく天ぷらうどんを作ったのに……

 大正町までは車で三十分ほど、帰ってくる頃には確実に悲惨なことになっている。




 ……ならば仕方がない。





 車で食う!






 うどんの入ったどんぶりを抱えて、運転席に乗り込む。

 どんぶりには汁がなみなみ入っているが、捨てようとすれば中身も全滅になることは簡単に想像できる。

 かといって、これを残したまま運転するのは非常に厳しい。

 だから、運転する前に飲んでやる!


「だちゃちゃちゃちゃ!」


 熱い! 舌を火傷しそうなほど熱い!

 くそっ! 誰だ、こんなアツアツの汁に仕立て上げたのは! 俺だ!

 いかん、これと格闘する間にも、どんどん時間が過ぎていく。

 ……やむを得ん、出発するか!


 ギアをドライブに入れて、アクセルをゆっくりふむ。

 ……オートマ車で本当に良かった。

 これがマニュアル車だったら、今頃俺は発狂していることだっただろう。

 速度は出せない。

 下手に速度を出すと、急ブレーキをかけたりしなければならなくなった時に死が見える。

 ここは法定速度を順守して、安全運転で行こう。

 流石にこれくらいのことは、大目に見てもらわないとな。


 さて、まずは麺から食べるとしよう。

 伸びてしまうと、箸で掴んでも簡単に切れてしまう。

 だから、コシのある今のうちに食べてしまわないと、後々つらいことになる。

 俺はどんぶりの中に、箸を伸ばした。




 天ぷらが邪魔で……麺が出せないだと…… 




 くそっ、誰だ、ただのかけうどんでいいところを天ぷらうどんにしやがった奴は! 俺だ!

 これは大問題だ。

 何しろ、俺は運転中。急ブレーキを踏まないようにするためにも、前はしっかり見ていないといけない。

 ところが、その状態で麺を取ろうとすると、麺に引っかかった天ぷらがどんぶりから転げ落ちてしまう。

 ……うどんの上に載ってるのは……ゲソ天、海老天、玉子天、しし唐天、ちくわ天……揚げすぎだバカヤロウ!

 これのうちの少なくとも三つは食べてしまわないと、麺にはたどり着けない。

 ならば、食うしかない!


 まずは貴様だ、海老天野郎!

 俺は前をしっかり見つつ、海老天をチラ見しながら箸で掴み、口に運ぶ。

 ……チクショウ……家でゆっくり食えれば、汁を程よく吸った美味しい奴が食えたのによぉ……

 味は美味いのが、なおのこと癪に障る。

 が、一つ重大な問題に気が付いた。



 長い……一口で食いきれん……



 どんぶりに戻すのはナンセンスだ。

 何しろ、それをやってしまうと、再び箸で拾わないといけなくなる。

 ただでさえそのときに前から目を離すから危険なのに、片手運転の頻度が増えてしまう。

 ……あ、右手は箸を握りながらハンドルを掴んでるから、その辺は安心してね。

 んなこと言ってる場合じゃねえ! この海老天を何とかせんと!

 ええい、こうなったら、ポッキーを手を使わずに食う要領だ!

 唇で海老天をはさみ、中に送りながら海老天をかじる。

 口の中が海老天でいっぱいになってしまうが、それは仕方がない。




 急カーブだとぉっ!?




 いかん、いつの間にか道を間違えていた! 何処だここ!?

 くそっ、食うことに集中して曲がるところを通り過ぎるとは、不覚!

 いや、冷静になってみてみれば、まだ知った道だ。

 それよりも、今は速やかにゆっくり減速しなければならない。

 自分でも何を言っているかわからんが、とにかくそうするしかない!

 口の中の海老天を咀嚼しながら、急ブレーキにならないようにゆっくりブレーキを踏む。

 よしここまでは大丈夫……じゃねえ、思ったよりカーブが急だ!

 やばい、このままだと汁がこぼれる! 

 こら、後ろ! 煽ってくんじゃねえ! 俺の車の中が大惨事になるじゃねえか!

 ええい、後ろを気にしてる暇なんざねえ! くっ、持ちこたえてくれよ……!


 ふぅ……何とか危機を脱したか……

 口の中の海老天もなくなった。

 続いて、しし唐とちくわ天を食べていく。

 しし唐は一口サイズで食べやすいし、ちくわ天もそんなに大きく切っていたわけじゃないから、すんなり食べられる。

 次は、いよいよ麺だ。


 くっ、揺れるな、揺れるんじゃない!

 俺の箸から逃げようったってそうは行かねえ! とっ捕まえてやる!

 よし、掴んだ!



 ……どうやって食べれば、汁が飛ばないんだ……?



 ど、どんぶりとの距離が遠い……これでは、すすったときに間違いなく服に汁が飛ぶ。

 しかも、俺が着ているのは美里と一緒に買った思い出のTシャツ。汚すわけには行かない。

 ええい、昼にうどんを食べようとか言い出したのは何処のどいつだ! 俺だ!

 口惜しいが、今はまだ麺を啜るときではないということか……

 こいつを食えるのは、車が完全に止まるとき……つまり赤信号しかない!




 なのに何で信号が全部青なんだあああああああああ!




 くそう、神は俺を笑いものにしたいのか!

 ちぃっ、そう思い通りになってたまるか!

 ならば残りの天ぷらから片付けるまでだ!

 くそっ、ゲソ天が美味い! 美味いけどでかい!

 こいつは強敵だ……海老天やちくわ天の戦略は通用しない……くっ……だが、こいつに手間取っている時間は……

 こうなったら箸で一気に押し込んでやる!



 しまった……詰め込みすぎて、上手く噛めない……



 なんという大失態……口の中に満タンに入ったゲソ天は、その弾力を遺憾なく発揮し、俺が噛み切ることを困難にしている。

 落ち着け……ここは少しずつ、ゆっくりと飲み込んでいこう。

 喉でも詰まらせたらそれこそ一大事だ。

 他の物は食えんが、少しずつ進むしかない。




 って時に限って何で赤信号ばっかなんだよおおおおおお!




 チクショウめ! ゲソ天で焦らなきゃここで麺食えたじゃねえか!

 生兵法も甚だしい! 何処のどいつだ、そんなことをした馬鹿は! ああ、俺さ!

 滂沱の涙を流しながら、口の中のゲソ天を処理していく。

 そして、口の中のゲソ天を処理し終わったと同時に、信号が青になる。

 ああ、お約束って奴かよ、バカヤロウ!

 なら、玉子天を食べて天ぷらを終わらせてやる!




 なっ……玉子天が……衣をパージした……?




 な、何と言うことだ……これではただのゆで卵……揺れる車内において箸でつかむのは、非常に困難だ。

 ぐっ、玉子に気を取られて交通事故を起こしてはダメだ。

 となると、次に手をつけるところは……そうだ、汁だ!

 道が直線に変わり、歩道に人が居ないのを確認して、いざ勝負!




 熱すぎるわバッキャロォォォォォォォ!!




 くそう、思ったよりも冷めていない!

 何故だ……そうか、衣の油が汁が冷めるのを妨害しているのか!

 誰だ、このうどんに天ぷらなんか乗っけやがった奴は! 俺のバカヤロウ!

 だが、今戦える相手はこいつしか居ない。

 おら、汁野郎、とっとと喉を通りやがれ!

 くっ……こいつめ、とんだ熱血野郎だ……ただでは死なんとばかりに、俺の口や喉を焼いてきやがる……

 だから煽るんじゃねえ後ろの車! どんぶりぶつけんぞ!


 よし! 赤信号だ!

 一気に麺をかっ食らってやる!

 くっ……でろんでろんに伸びてやがる……我、悲しい……

 せめてもの供養だ……残さず全部、汁と一緒にかっ込んでやる!

 ええい、邪魔だ元玉子天! 我が悲しみに満ちた麺の供養を邪魔するな!

 ただのゆで卵となった分際で、我の口の前に立ちはだかるとは不敬であろう!

 あっ、コラテメ、後ろの車! クラクション鳴らしてまで俺を煽って……あ、青信号ですね、すんません。





 さあ、幾重もの妨害(青信号)と仲間(赤信号)の助けを経て、俺はとうとう完食へとたどり着かんとしている。

 最後は、我が最高の強敵(とも)との決着だ。

 丸裸(要するに、赤信号で車が止まっている)になった今、何時など恐れるに足りず! 喰らい尽くしてやる、玉子天!

 俺はどんぶりを一気に傾けて、玉子天を一息で喰らい尽くした。

 ぐぅ……喉に詰まるとは……我の勢いを利用して一気に最奥に飛び込むとは、流石は我が認めた強敵(とも)よ……

 だが、それもこれまでだ。

 俺はお前を下し、姫の元へと駆けつけるのだ!




 ショッピングモールの駐車場に付き、助手席に静かにどんぶりを置く。

 ふぅ……もっとゆっくり食いたかったぜ……

 さて、里美は何処に居るかな……


「あ! 暁! 助けて!」


 里美は俺を見つけるなり、こっちに駆け寄ってくる。


「いきなり呼び出して、何があったんだ?」

「いいから、こっち!」


 俺の手を引っ張って、里美はショッピングモールの中を走り抜けていく。

 そして、ある女性向けの洋服屋の中へと駆け込み、ある一角で足を止めた。

 全く、俺は飯食ってすぐだって言うのに……


「一体なんだっていうんだよ……」

「どっちの服を選べばいいかわかんないの!」


 里美は二つの服を指差して、涙目になりながら俺に話しかける。



 さて……このやり場のない気持ちを、どうすればいいのだろう。

突発三時間クオリティです。

ネタがそんなに無いので、暁くんに食べさせたいものがあったら感想欄にコメントください。

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