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医師を志す者達  作者: まさな
第一章 偽りの自分
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第七話 アリスの病気

 翌日、早起きした俺は味噌汁をきちんと作った。詩織の作り置きのマカロニサラダも添えて、アリスと二人でご飯を食べた。


「さて、じゃ、病院へ行くぞ」


 着替えも買ってやらないとな。


「や!」


 ほう。明確に拒否の意思を示してきたか。ま、注射とか好きな子供はいないだろ。


「だが、駄目だ。ほれ、来い」


「やー!」


 嫌がるアリスを引っ張るが、結構力あるな、コイツ。体も大きいし。


「終わったら、パフェでも奢ってやるからさ」


 懐柔を試みる。


「パフェ?」


「ああ、美味しいぞー」


「パフェー!」


 両手を挙げて喜ぶアリス。

 フッ。所詮子供。チョロいぜ。


 アリスを病院へ連れて行く。泌尿科だろうな。俺が知っているのは近場の白百合総合病院だったので、そこに行く。


「保険証が無いんですが」


 受付カウンターの職員に俺は言う。


「そうですか、後からでもいいので、持って来て下さい。料金がかなり安くなりますので。紹介状も無いですよね?」


 大病院にいきなり行くと割高になるらしい。病院なんて子供の頃に盲腸をやっただけだったから、よく分からないな。


「ええ」


 受付を済ませ、アリスの診察カードも作ってもらった。


「……」


 病院では静かにしているようにと言い聞かせないと駄目かと思っていたが、アリスは一言も喋らず、静かなものだ。俺は拍子抜けした。

 妙に元気が無い気もするが…。


「アリス、大丈夫か」


「うん」


 返事はするし、体調に問題は無さそうだ。


 モニタに番号が表示され、ようやく順番が来たので検査室に向かう。


「じゃ、アリスさん、ですね。血を採らせてねー」


 嫌がるかと思ったが、アリスは大人しくしていた。


 次は、尿検査があると言う。紙コップを受け取ったが…。


「アリス、これは…」


「分かるよ」


「ああ、そうなのか」


 ほっとした。前にも一度やったことがあるようだ。女子トイレの(そば)で待ち、アリスがきちんとできたことを確認して提出し、また順番を待つ。


 ……。

 一時間が経過した。アリスの受付番号は9015番だ。ま、すぐ順番が回ってくるとは思っていない。

 漫画が置いてあったので、それをアリスに読ませ、俺はのんびりぼけーっとテレビでも見て時間を潰すことにする。


「近年、医療費は増大の一途を辿り、国の予算を圧迫しています。いかに医療費を抑えるかが今後の重要な課題となりそうです」


 テレビに映る概算医療費の棒グラフが年々右肩上がりを見せていた。

 日本は超高齢化社会と言われるが、ま、長生きして老いてくれば病気も増えるし、医療費の増大は必然だろう。

 グラフでは40兆円を超えているが、国家予算がだいたい100兆円だったかな。その4割も使っているとなると、かなりの額だ。ただ、医療費ってそんなにかかるかね?

 薬代や設備費用が高いのかね。両親を見ていると、そこまで医者の給料は良くない気もするが。

 それにしてもこの40兆という膨大な数字は、俺には少し変な数字に思えてしまった。


「ありゃあ、嘘の数字じゃ」


 隣に座っていた頑固そうなお爺さんが言った。

  

「平成28年度の予算は、国債の借り換えと利子が25%、公共工事が6%、科学教育が5%、地方交付税が16%、防衛費が5%、その他が10%、ほれ、合計してみい」


 俺に向かって言ってくるし。


「え? はあ、67%ですかね?」


「おお、正解じゃ。計算が速いの。その時点でもう6割を超えておるわい。総額で96兆円、公務員の人件費もある。医療予算は40兆円も使っておらん証拠じゃ」


 ふむ、医療費と医療予算の違いか。医者が公務員なのかどうか、公立病院と民間病院で人件費も変わって来そうだが。

 テレビの続きを見ていると、今度は前のソファーに座っていた中年の男の話が気になった。隣の女性に向かってアメリカの医療費の話をしている。


「だから、アメリカで手術するときは注意した方が良いですよ。100%の保険に入ってないと、足の骨折で7万ドル、700万円も請求されましたからね」


「あらまあ」


 骨折で700万って凄いな。


「こっちも仰天して請求書の内訳を要求したら、レントゲン写真一枚に7万円請求してましたからね。抗議したら7千円になりました。無茶苦茶ですよ」


 無茶苦茶だな。ぼったくりバーみたいな病院があるのか。


 

 別のモニタが切り替わり、9015番が表示された。


「行こう、アリス。順番だ」


「うん…」


 アリスを連れて泌尿科の診察室に入る。三十代くらいの黒縁眼鏡の男の医者だった。女医が良かったが、仕方ないな。


「お願いします」


「はい、じゃ、掛けて下さい。ええと、アリスさんね。これ、名字は分からないんですか?」


 医者がパソコンのモニタを確認しながら聞いてくる。


「分かりません」


「そうですか。じゃあ、ええと、内側のかゆみ、これはいつぐらいからですかね?」


「それも分かりません。アリス、いつからかゆいんだ?」


「ううん、ちょっと前から」


「一週間くらいかな?」


 医者が聞く。


「もっと前」


 アリスが首を横に振る。


「二週間?」


「それくらい」


 頷いた。


「そう。じゃ、ちょっと、見てみましょう。アリスちゃん、こっちのベッドに寝てくれるかな」


 アリスは頷いてそちらに自分で移動した。


「あら」


 女性の看護師が少し驚いたようだが、うえ、アリスは下着を着けてなかった。詩織が脱がせたままにしたんだろうな。正しい判断だと思うが、一言、俺に言っておいて欲しかった。

 だが、そこはプロの医者とプロの看護師、いちいち騒いだりせず、診療を続ける。


「じゃ、ちょっと冷たいけど我慢してね」


 股を広げさせられ、医者が器具を使って覗き込む。

 引っつかんで止めさせたかったが、これはあくまで診察だ。必要な事だ。


「ああー、ここがちょっと腫れてるかな、はい、もういいよ。ごめんね」


 アリスが戻って来る。


「多分、カンジダ菌による炎症だと思うんですが、子宮の中の方もだと産科の先生に診てもらった方がいいかもしれません。今なら順番に割り込みを掛けられますから、すぐだと思いますけど、どうされますか?」


「ああ、じゃあ、専門の先生に」


 俺はその方が良いだろうと判断した。


「そうですね。分かりました。じゃ、割り込み掛けておきますね。番号はそのままなので、表示されたら診察室に入って下さい」


「はい、どうもありがとうございました。あっ、アリス」


 アリスはお礼も言わずに行ってしまった。医者が苦手なのかな。


 また長い時間待たされるとうんざりだったが、すぐに順番が回ってきた。


「アリスさん、3番の診察室へお入り下さい」


「こっちだ、アリス」


 3番の診察室の医師の名は真田静香となっていた。

 …まさかな?

 姉さんは心療内科だったし。


「はい、今日はどうされましたか。って、あらぁ」


 モロに姉貴だった。片側に髪の毛を流して、白衣の下は派手な赤のボディコン。

 最悪だ。


「うえ…じゃ、僕は外で…」


「待ちなさい。ええと、真田賢一さん、今日はどういうご関係でアリスさんを連れてこられたのかしら?」


「…その、付き添いで」


「ご家族ではありませんね?」


「違います。てか、いちいち聞かなくてもそんなの分かるだろ」


「分からないから聞いてるのよ。大事なことだから、真面目に答えて。こちらも医師として聞いています」


 真面目な口調で姉貴が言うので、俺も真面目に答えることにする。


「はあ、ううん、公園で迷子っぽいこの子を保護して、警察に連れていったんだけど、いまいちな対応で、それで家に連れ帰って…」


「それで、お持ち帰りしたわけね?」


「違う!」


「オホン、病院ではお静かに願います、真田さん」


「失礼しました。やましいことは何も無いですから、真田先生」


 くそ、隣で看護師が笑いをこらえてるし。


「やましく無いなら、どうして、アリスちゃんの名字も生年月日も空白なの? うちは守秘義務はしっかりしてるから、不法滞在でも大丈夫よ?」


 姉貴がそんな事を言い出すが。


「いや、違うって。この子が知的障害で、分からないだけだよ。不法滞在じゃ無いはずだ」


「アリスちゃん、フルネームは分かるかな?」


 姉貴がアリスに聞く。


「んーん。アリスはアリスだよ」


 首を振ってそう答えるが。


「そう。私は真田静香って言うの。コイツのお姉さん」


「にゅっ? 賢一のお姉さん?」


「そうよ。ああ、後で賢一のちっちゃい頃のアルバム、見せて上げましょうか。女の子みたいで可愛いわよぉ? 七五三の着物姿とか、くくっ」


「おい」


 俺の黒歴史をここで出すのは止めてくれ。


「あ、見たい! 見せて見せて」


 アリスが興味を持ってしまったが。


「いいわよ。ひょっとしたらこの子が私の義理の妹になるかもしれないし、真田家の新しい家族になるかもしれないものねー。お互い色々知っておかないと」


「い、いやいやいや」


 ねーよ。顔が熱くなるが、それは無いんだ。今は。将来は…わからんけど。


「それで、アリスちゃん、パパとママのお名前、お姉さんに教えてくれるかな」


「パパと、ママ……。ううん…ううん…うう、アタマ痛い…パパ、ママ…はー、はー」


 なんだか顔をしかめたアリスの様子がおかしくなった。どうした?


「そう、ごめんね、無理に思い出さなくても良いわよ。アリスちゃん、ゆっくり深呼吸して。吸ってー、吐いてー」


「すー、はー、すー、はー」


「どう? 楽になった?」


「うん! なった!」


 元気になったようだが…。今のは…? アリスの両親が何か関係しているのだろうか。


「今までお薬は飲んで平気だった? かゆくなったり、赤いブツブツが出たりしてない?」


 姉貴がアリスに聞く。


「ううん。平気。アレルギーは無いよ」


 医者の診察は馴れているのか、アリスはすぐに答えた。


「ああ、そう。じゃ、性器を診察してみましょう。そこのベッドに寝てくれるかな?」


 アリスをベッドに寝かせ、また股を開く。


「アリスちゃん、最近、セックスはしましたか?」


「おい」


「真面目な質問よ」


「セックス?」


「そ。男の人と、抱き合ったりキスをしたり…」


「あ、一昨日、ベッドの上で賢一と抱き合った! いっぱいした! とっても気持ち良かった!」


 アリスがとんでもないことを言う。


「おいー! それは違うー! あれはハグだから、ハグ」


「ぷぷっ、まあ、処女膜もあるし、本当みたいね。内視鏡、入れてみましょう」


 黒いケーブルが用意され、手袋をした姉貴がアリスの身体の中に入れていく。

 慎重にやれよ?

 と思ったが、相手はプロ、こちらは素人、口は挟めない。


「うん、奥は綺麗ね。下り物によるただの炎症でしょう。念のためスプレーの消炎剤を一週間分処方しておくけど、心配は要らないと思うわ」


 良かった。肩の力が抜けてほっとする。


「スプレーをお風呂から上がった時にシューってかゆいところにね。かゆみが酷くなったりしたり、何かおかしいと思ったら、またここに来てね」


「うん!」


 アリスは理解した様子。


「それから、賢一、パートナーのあなたにも注意点だけど、あなたもセックス、特に中出しで上をこするような激しいのは駄目よ。控えてね。分かった?」


 お前は子供の前で何を言い出すんだと。


「おい。いや、まずパートナーじゃねえし、控えるも何も、全然そう言う関係じゃ無いっての」


「あう…」


「ほらあ、アリスちゃんが泣きべそになってるわよ」


「いや、違うぞ、アリス。アリスが嫌いになった訳じゃ無いからな?」


 ほっとする顔のアリスは、俺にどんな好意を抱いているのか、ちょっと気になってしまう。


「それと賢一、ビールとつまみ用意しておいて。今晩、アンタのアパートに行くから」


「ええ? 勘弁してくれよ、静姉。俺はもうすぐ前期試験で忙しいんだから」


「ああ、じゃ、留年しないように頑張ってよ?」


「分かってるよ。じゃ、ありがとうございました」


「お姉ちゃん、ありがとう!」


 アリスもお礼を言った。


「はい、お大事に」


 姉貴もニッコリ笑う。


 受付で精算を済ませ、病院を出る。処方の薬もすぐ隣の薬局で受け取った。


「さてと。じゃ、アリス、パフェを食べに行くか」


「うん!」


 もうお昼時になっているし、約束だもんな。

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