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医師を志す者達  作者: まさな
第一章 偽りの自分
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第六話 三人でお風呂?

2017/1/1 若干修正。

「アリスちゃんのご両親も心配していると思うんです。警察に任せきりじゃなくて、こちらから探してみたらどうでしょうか」


 詩織が正座して正論を言う。俺は少し痛いところを突かれたなと思ってしまった。

 寝転んだアリスと洗い物をしてくれた詩織、この二人がいる雰囲気をなんとなく心地良いと思ってしまったが、それは本来、正式な家族の特権のようなモノであり、アリスの家族が味わうべきモノだ。

 今頃、彼女の両親は必死で娘を探しているのだと思うと、安穏としている自分が酷く横柄な人間に思えてしまう。いや、事実そうだろう。


「そうだった。だが、探すと言っても……」


 今からか。緊張の糸が切れてしまっているので、街で声を掛けて探し回る気力が起きない。

 

「ネットを使ってみたらどうでしょうか。それなら私達にも簡単にできると思います。アリスちゃんの髪は珍しいですし」


「ああ、その手が有ったか」


 迂闊(うかつ)。どうして今まで気づかなかったんだろう。ネットはこういうときに一番役に立ちそうなのに。


「珠美が自分のホームページを持ってるので、そこに写真を投稿してみましょう」


「ああ。悪戯も来るだろうから、電話番号じゃ無くて、捨てアドのメールでな」


「ああ、さすがですね。私、そこまで頭が回りませんでした」


 いやいや、君はそういう汚れた世界は知らなくていいんだよ。


 俺の携帯でアリスの顔写真を撮る。アリスは撮ってもらうのが嬉しかったようで両手を挙げた満面の笑顔だった。

 ま、表情は少々違っても、肉親なら一発で分かるだろう。


「ふーん、珠美の恋愛相談所か。アイツも暇人というかなんと言うか」


 素人のページとは思えない充実ぶりだ。医者になるより、ウェブデザイナーとかの方が似合うと思う。だいたい、なぜアイツが医者を目指してるのかが謎だ。


「そうですね。もっと勉強にも身を入れて欲しいですけど、今回は役立ちましたから」


 詩織のIDでログインして、状況とアリスの顔写真を載せておく。

 載せるのがここのサイトだけだと微妙な気もするが、PVが累計一億なので、転載は可にして、珠美の力に頼ることとした。


 ひとまず、これで良し。

 俺と詩織は頷き合った。


 さて、これからどうしようか。壁掛け時計の針は午後八時を示している。


「あっ、駄目よ、アリス!」


 詩織が鋭い声を出すので、どうしたのかと思ってアリスの方を見ると、スカートの下に手を突っ込んで、ボリボリと掻いていた。


「真田君もこっちを見ちゃ駄目です!」


「お、おう」


 別に、そこまでマズいことじゃないと思うが、下着が見えそうだったからな。自重しよう。


「アリス、そういうのは人前でしたら駄目です。それから、あんまり掻くのはお肌に良くないんだよ? どこがかゆいの?」


「ここ」


「ううん、お腹?」


「ううん、ここ、おしっこ出すところ」


「!」


 キッと凄い目でこちらを睨んでくる詩織。初めて彼女があんな目をするのを見た。恐怖だ。

 お、オーケー、俺は何も聞いてない。両耳を塞いであっち向いて待機だ。


「ううん、じゃ、あ、お風呂、入りましょうか。キレイキレイにしましょうねー」


 詩織が良いことを言う。そう言えば、昨日、風呂に入れてやってなかったわ…。


「うん! じゃ、みんなでお風呂だね!」


「「 え 」」


 俺と詩織は目を合わせ、止まる。

 家族ごっこをやっていたが、さすがにそこは本当の家族じゃないとできないところだろう。


「ええと、あっ、じゃ、私がアリスを入れますから」


「そ、そうだな」


 俺が入れるわけにはいかない。アリスは一人で風呂に入れるかもしれないが、何かと心配だから、最初は詩織が様子を見てやった方が良いだろう。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 知り合いの女の子と、女児が、俺のアパートの部屋の風呂に入っている。


 ………。

 これで、あらぬ妄想をするなというのはさすがに厳しいだろう。

 俺も男の端くれである。健全な男子である。

 

 ミス三鷹のあのスレンダーで均整の取れた色白の肉体が。

 あどけない銀髪美少女の無垢な身体が。


 壁一つ挟んだ向こうにいるのだ。

 裸で。

 産まれたままの姿で。

 どこも隠さず、さらけ出して。

 ありのままに。

 

「きゃっ、きゃっ!」


「あ、駄目よ、アリス」


 声も聞こえてくるし。


 くそっ。

 別に覗こうなどとは思わないが、見たいとは思う。うん。あくまで思うだけだ。

 実行しない限り、それは犯罪では無い。


 俺は必死に賢者を装い、静かに椅子に座って待つ。

 じりじりとしながら待つ。


「ちょ、ちょっと、アリス、どこ触ってるの、ひゃっ! あっ、駄目。ちょっとぉー」


 ああもう、何してるんだ。


 さすがに我慢できなくなり、俺は脱衣場のドアを開ける。

 ここからでは風呂場の中は見えない。


「大丈夫か?」


 中に向かって声を掛ける。


「だ、大丈夫です! 今、開けないで下さいね!?」


 狼狽えた詩織が返事をした。大丈夫そうだ。

 磨りガラスを通して詩織の姿がおぼろげに見えるが、それだけだ。

 ここでドアを開ければ、無防備な詩織がそこにいる。

 彼女は事情があるとは言え、独身男の部屋に自分から上がり込んだのだ。客観的に見て良い雰囲気だろう。


 俺は意を決して―――寝室に戻った。




「真田君、アリスに何を教えたんですか」


 濡れた髪の詩織が風呂から上がってきて真顔で俺に問う。服は着ている。元のままだ。


「いや、何も教えてはいないが……」


「本当ですね?」


「ああ」


「なんだかアリスは女性の身体に凄く興味があるようで、変なところまで触ってきたり……ま、まあ、それはいいんです。それより、その…彼女、お腹の中がかゆいみたいで」


「中?」


「え、ええ。具体的に言うと…、ちつ、だと思います」


「あ、ああ…」


「シャワーで洗ってあげたら、気持ち良さそうにしてましたが、かゆみは取れてないって。そうよね、アリス」


「うん、ここ、かゆい」


 そう言ってスカートの上から掻こうとして、サッと詩織に右手を掴まれるアリス。


「何かの病気かもしれません」


「ああ…うーん。あ、先に髪を乾かして。ドライヤーはこれを使ってくれ」


「あ、はい」


 二人が髪を乾かすのを待つ。


「真田君もお風呂、入って下さい」


 詩織が言う。


「んん? そうだな」


 二人が帰ってからでもいいのだが。ん? まさか詩織は俺の部屋に泊まっていくつもりなのだろうか?

 それはどうかと思うが、詩織にしてみれば、アリスを俺と二人きりにするのは心配なのだろう。信用の無いことだ。とほほ。


 ささっと烏の行水で風呂を終えて上がる。




「アリスの病歴とかは、分からないですよね?」


 風呂から上がった俺に、詩織が聞いてきた。髪の毛は綺麗に乾かし終わったようで、サラサラだ。二人とも風呂に入る前と同じ服を着ていて、パジャマで無いのが惜しいところだが。


「ああ、昨日、会ったばかりで、住所も分かってないし、連絡先もまだだからなぁ…」


 こういうときに非常に困る。アリスに持病のようなものがあって、それなら携帯の薬を持っているかもしれないが、アリスは薬は持っていなかった。持ち物は確認済みだ。


「明日、病院に連れて行ってあげましょう」


「そうだな」


「着替えも必要ですし」


「ああ、そうだな」


 今日はもう遅いし、明日で良いだろう。テストよりはアリスの身体のことが心配だ。大事なければ良いんだが。


「じゃ、ベッドをどう使うかですけど……」


 やはり、詩織は泊まっていくつもりらしい。家の方は大丈夫なのかね。まあ、彼女ももう二十歳過ぎてる大人だからな。


「俺は床で寝るから、君がアリスと一緒にベッドを使ってくれ」


 俺もそこは諦めて詩織の宿泊を許可することにする。断ると、凄く面倒な事になりそうな予感がしたのは言うまでも無いが。


「ごめんなさい。本当はあなたとアリスがベッドで、ううん、ま、男の子ですからね。今日は我慢してもらいましょうか」


「ああ。君を床で寝させるのもどうかと思うし」


「私は大丈夫ですよ?」


「床で寝たことあるのか?」


「それは無いですけど…」


 じゃ、止めといた方がいい気がするな。


「そ、それと、夜中に動いたり、歩き回ったりは……」


 詩織が不安がる。


「しないしない。喉が渇いて水を飲みに行ったり、トイレに行くかもしれないが、下手なことはしないから」


「はい。真田君なら、うん、大丈夫かな」


「じゃ、寝るか」


「はっ、はい」


 やたら詩織が意識してしまったが、俺も言い方を間違えたな。


「睡眠の方な。じゃ、電気消すぞ」


 付け加えておく。アリスはもう半分寝入っていて、静かだ。

 暗がりの中、詩織が言う。


「アリスのご両親、早く見つかるといいですね」


「そうだな」


「――に感謝しないと」


 詩織が何かつぶやいたが、今度は聞き取れなかった。


「ん? 何か言ったか?」


「い、いえ、何でも無いです」


「そうか。じゃ、お休み」


「はい、お休みなさい」


 モーツァルトのトルコ行進曲の電子音が鳴り始め、詩織の携帯だと気づいた。


「ご、ごめんなさい」


「いや、いいが」


 俺は部屋の明かりを付けてやり、詩織は携帯を持って寝室の外に出ていく。


「分かってます! 私だってもう子供じゃありません。成人の大人ですよ? 分かりません。どうしてお父さんにそこまで行動を束縛されないといけないんですか。そ、それは…」


 電話の向こうの父親と揉めている様子。まあ、彼女は家に帰った方が良いだろう。

 戻って来た。


「あ、ごめんなさい。私、家に帰らないと」


「それがいい。送っていこうか?」


「いえ、そこまでは。アリスちゃんに付いててあげて下さい」


「ああ」


「それじゃ、また明日、来ますね」


「入れ替わりになってもまずい。メールを入れてみてくれ」


「はい」


 珠美の計らいにより、お互いのメールアドレスを知っているが、初めて使う事になりそうだ。

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