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医師を志す者達  作者: まさな
第一章 偽りの自分
19/98

幕間 仮面

流血等、残虐なシーンがあります。

かなりダークなサイドストーリーなので、ほのぼのストーリーがお好みの人は読まないことを推奨します。

シナリオは読み飛ばしても問題無く繋がるようにしてあります。

(視点が別人になります)


 アイツだ!


 花下信夫はとっさにアクセサリーショップの中に入って、表通りから身を隠した。

 花下(はなした)信夫(のぶお)、二十三歳。

 二浪して加素大学に入っているのでまだ三年生である。

 両親は一流企業に勤めているため、家賃十二万円のマンションと仕送り十五万という、他の学生が見れば羨むような待遇であったが、信夫にとってはその両親こそがプレッシャーであり、鬱陶しい存在であった。

 

「銀髪の子を見ませんでしたか! アリスって言うんです!」


 声も聞き覚えがあった。間違い無い、コンビニで僕を盗撮の犯人に仕立て上げようとした奴だ。

 まあ、実際、やろうとはしてたけど。


 しかし、まずいな、今、見つかるのは凄くヤバい(・・・)

 絶対アイツは、僕を許さないだろう。

 バレたら、いきなり殴りかかってくるかも。いや、そんなもんじゃ済まないな。下手すりゃ殺されかねない。


 背中にじっとりと汗が出てきたが、この店には裏口は無さそうだ。

 となると、奥に隠れてやり過ごすしか無いだろう。

 この店に入ったのはミスったが、今更出て行くわけには行かない。


「ねえ、何あれ」


「場違いって言うかー、お店、間違えたんじゃないの? ここ、彼女にプレゼントを買うのでもなければ、男が来るような所じゃないのにねー」


 後ろで女子高生二人が僕のことを気にしたようだが、くそっ、黙ってろ。

 アイツに()気付かれたら(・・・・・・)、タダじゃあ済まないんだぞ!


「なんか変な臭いしない?」


「うん。汗臭いって言うより、かび臭いよね。しかも濡れてるし。キモい」


 うるせえ。天気予報、見ておけば良かった。雨が降るとは思ってなかったからな。



「君たち、この辺で銀髪の女の子、見なかった? アリスって言う子なんだけど」


 僕の後ろの二人に話しかけやがった。


 心臓が止まるかと思った。アイツがすぐ後ろにいる。


 ぼ、僕は背を向けているが、僕にも声を掛けらてきたらどうする?

 そうだ、商品を選ぶフリをして、アリスなんて知らないって答えよう。それでアイツは満足して向こうへ行くかも。

 顔は覚えられてるから、絶対に顔を見せる訳には行かない。


「え? 銀髪ですか? いえ、見なかったよね?」


「うん」


「そう、ありがとう」


「いいえー」


 よし! 僕には気づかず、走って行ったようだ。

 ふう、助かった。

 やっぱり、今の僕は神がかってる。

 ツキが回ってきてる。



「ねえねえ! 今の人、超格好良くなかった?」


「格好良かった! 頭良さそうだったし、すらっとしてたし、モデルみたいなイケメンだったよね」


「服が濡れてたけど、傘、貸してあげれば良かったなあ」


「貸してって言われたら、即自分の差し出してたよね。使って下さいっ! って」


「うんうん」


 けっ! 

 なら僕にもその傘を貸せよ。顔で人を差別すんな。差別主義者が。


 そのまま店を出ようかと思ったが、良いことを思いついて僕は商品の指輪を一つ手に取る。

 一個五百円の安物だ。

 イミテーションだっけ? まぁ、何でもいい。タダの玩具だ。

 後ろの二人の女子高生を盗撮なんてしない。ケバいヤツはこっちからお断りだ。アウトオブ眼中だっての。

 何せ、今の僕はもっと良い物(・・・)を手に入れてるもんな!

 早く帰ってあの子と遊ばなきゃ。へへ。


「こ、これ、彼女へのプレゼントなので、つ、包んでもらえますか」


 僕はカウンターへ指輪を出して言う。


「はい」

 

 店員の女は嫌な顔一つせずにそれを受け取り、税込みの値段を告げた。僕も財布から金を出して払う。


「えー、あの顔で彼女がいるんだって」


「どうせ彼女も不細工なんでしょ。しかも、どもってるし」


 ホント、失礼だな! でも僕の彼女はお前らなんかと全然次元の違う可愛さだけどな。バーカバーカ。

 しかも、絶対に僕を馬鹿にしたりはしない。

 何でも言うことを聞いてくれる。へへ。

 何でもだ(・・・・)



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「へへ、へへ」


 ここは信夫のマンションの寝室だ。

 遮光カーテンを閉め切り昼間でも室内の明かりのみ。防音も利いているから、プライバシーの保護は完璧だ。


 食い入るように新しく手に入れた彼女を観察する信夫。


 綺麗な銀髪が腰まで流れるように伸びており、華奢な体のラインはバランスも取れていて申し分ない。鮮やかな青い瞳は清純そのもの。

 あどけない表情がこれまた堪らない。


「じゃ、お、お着替え、しようか。へへ」


 信夫は下着も多数コレクションしていたので、こういう事態にも困ることは無い。

 小さな人形(・・)は抵抗すること無く服を脱がされ、新しい下着を身につけた。 


「うん、に、似合うね。イリ――いや、やっぱり、アリスちゃんにしよう。きょ、今日から君の名はアリスだ」


 アイツが言っていた名前を信夫は気に入ったのだ。

 警察に嘘までついたから、本当のことがバレるとマズいし、まさか、あんなにすぐ刑務所から出てくるなんて思いもしなかった。不起訴になったんだろうか?

 裁判所で証言してくれという電話も来てないしな。まあ、アイツとはもう関わらないようにしよう。証言も覚えてないって断れば良い。


 信夫は先ほど買って来たアクセサリーの袋を乱暴に破る。


「ほら、アリスちゃん、ぼ、僕からのエンゲージリングだよ」


 左手の薬指にその指輪をはめようとするが、数ミリの指にはやはり現実の指輪は大きすぎた。

 仕方なく、左腕に引っかけてみる。腕輪みたいになるかなと思いついて買ったものだが、腕輪の何倍もあって、サークレットのようにするしかないようだ。

 頭にかぶせてみたものの、やはり格好が付かない。


「ふん、や、安物だしな。あの馬鹿女共に見せつけるだけだったから、べ、別にいいさ」


 買ったばかりの指輪をゴミ箱に放り投げた。命中せず、床に転がったが、いちいち拾い直すのも面倒なので信夫はそのままにした。


「さて、チェックチェック…と」


 二十センチほどの三角柱の箱。プラスチック製だ。黒いラインが両端に入っており、この裏側に小型CCDカメラが二重底状態で仕込まれており、パッと見ただけでは、タダのゴミ入れにしか見えない。

 信夫はそれをパカッと外すとUSBメモリーを抜き取り、パソコンに差し込んだ。


「おえっ、ババアは入ってくんなって言ってるだろ! は、犯罪だっての」


 気に入らない女性は早送りして、可愛い女の子が入ってくるのを根気強く探す。

 信夫は盗撮が個人的な趣味であり、あちこちのトイレに仕掛けてはこうして時々回収し、ハードディスクに保存していた。

 ただ、信夫が最も上等だと考える女子校はガードが厳しく、女子トイレはおろか、校内にも侵入は不可能だ。

 では、どこを狙うか。

 不特定多数の人間が出入りしても問題の無い公共の場。

 公園、病院、体育館など。コンビニは男も共用だから駄目だ。

 きっちり下見して防犯カメラの位置も確認する用意周到さだが、可愛い女の子がいるとついつい衝動的にスマホで盗撮する困った癖もある。

 危うく警察に突き出されそうになったこともあるし、気を付けようとは思っているのだが。 

 そこに可愛いミニスカの小学生がいたのだから仕方ない。

 そこに山があるから、ではなく、そこに小学生がいるから、である。


 信夫はリュックサックから二つ目の隠しカメラを取りだし、メモリーをチェックするが。


「んん? な、なんだコイツ」


 白衣の男が女子トイレに入ってきたが、全身血まみれだった。

 だが、そいつは落ち着き払っており、痛がるそぶりさえ見せない。

 

 トイレの個室の鍵を閉めたそいつは、黒のバッグのジッパーを開け、タオルを取り出すと体を丁寧に拭き始める。

 何かのコスプレでもやっていたのだろうか。だが、ここは病院のトイレだ。

 では、手術を終えた医師だろうか。

 だったら、なぜ女子トイレにこそこそと入ってくるのだろう?

 よく分からない。


 男はチタンフレームの眼鏡も綺麗にして、拭き取ったタオルはポリ袋に入れ、黒いバッグに収めた。

 そして念入りに自分の体を手鏡でチェックし、問題が無いことに満足した様子でバッグを持ってトイレを出て行った。


 異様だった。


 変な趣味のヤツもいたもんだ。

 信夫はそれくらいの感想しか持たなかった。


 ガタン、とドアの音が奥から聞こえた。


 信夫はあれっと思った。このマンションは防音が効いているので、隣の部屋のドアの音は聞こえない。

 当然、自分の玄関口のドアの音なのだが、信夫は先ほど鍵も閉めているし、ドアチェーンも掛けたはずだった。


 不審に思って寝室のドアを開ける。


「あっ、お前、勝手に入ってきて何を――」


 信夫は侵入者に対して抗議しようとしたが、自分の声が途中で出なくなったことに疑問を覚えた。

 喉にぬるま湯が入ってきて、息ができない。


「が、かはっ」


 壁に血が飛び散る。

 これは自分の血なのか?

 そう思ったところで、信夫の意識は途絶えた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


(視点が別人に変わります)



 侵入者は信夫の部屋を観察した後、パソコンに興味を示し、動画を確認した。

 削除を選び、USBメモリも抜き取って回収する。


 そして黒いバッグから白いタオルを取りだし、室内に飛び散った血を丁寧に拭き取り始めた。


 その手が止まる。

 机の上には『セラピスト 橘葵』という名刺があった。

 黒い手袋をはめたそいつ(・・・)はその名刺を手に取り、しばし確認するとポケットの中に仕舞った。

信夫が持っていたのは、あくまでフィギュアです。アリス本人ではありません。


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