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医師を志す者達  作者: まさな
第一章 偽りの自分
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第十七話 一つ屋根の下

2016/11/7 若干修正。

 珠美が変な気を利かせて先に帰った。にやつきながらウインクして親指を立てていたが、アリスが一緒なのに俺と詩織に何をどうしろと言うのか。

 俺とアリスと詩織。またスーパーに立ち寄ってから俺のアパートに帰ってきた。


「ただいまー!」


 アリスは部屋に入ると大きな声で言う。


「ふふ、お帰りなさい」


 詩織が返事を掛けてやった。


「じゃ、今日は俺が料理するから」


「駄目です。男子厨房に入らず、ですよ」


 どうも詩織は俺の料理の腕を過小評価している気もするので、一度俺の腕前も披露してやりたいところだが、好きにさせてやるか。


「塗り絵ー!」


 そう言えば、ここに色鉛筆とか、置いたままだったな。

 アリスにはそれを描かせ、俺は教科書を開いて勉強。


 カレーの良い匂いがしてきた。


「なー?」


「あっ、これは駄目だぞ、アリス。高いんだから」


 アリスが俺の方を見て、医学書に興味を示したが、安いのでも四千円、高いのは七万円を超えるからな。


「やー」


「駄目だから」


「にゅう…」


 しゅんとしてしまうアリス。


「仕方ないな…これならいいぞ。ただし、塗るのは駄目だぞ」


「うん!」


 一番安い、読み終わってもう使わなくなった医学書を渡してやる。

 どうするか見ていたが、アリスは色鉛筆を丁寧に片付け、それを普通にめくって読み始めた。


 あれだ、内容がどうとかじゃなしに、俺の真似がしたかったんだろうな。

 可愛い奴だ。


「はい、ご飯できましたよ。あ、偉い、アリスちゃん、お勉強してるんだ」


 詩織がカレー皿を持って来た。


「なー」


「じゃ、ご飯にするか。片付けるぞ、アリス」


「うん!」


 栞を挟んで、芸の細かい奴。内容は俺でも苦労した難しい本だから、小学生に理解できるわけが無い。


「今日は豪華だなぁ」


「少し、頑張っちゃいました。ごめんね、アリス、お腹空いちゃったよね?」


「んーん、平気!」


「良かった。栄養たっぷりのカボチャカツカレーと、レタスロールスープと、ポテトグラタンです」


 カロリー凄そうだな。ま、ひと皿の量は少なめに作ってあるからなんとか食えるか。


「じゃ、頂きます」


 三人で合掌し、こたつ用テーブルを囲んで食べる。


「おお、甘すぎるかと思ったが、ちょうど良い感じだな」


 カボチャがカレーに入るとどういう感じになるのかと心配したが、元は辛口カレーをベースに入れているようで、程良い甘さと辛さだ。カボチャの主張も強すぎず、普通にカレーとして食える。普通のカレーよりマイルドな感じ。


「詩織、美味しい!」


「ふふ、ありがとう」


 とんかつも入っているボリュームバージョンだが、こちらは肉を薄くして衣も少なめにし、カリカリに仕上げている。少し胡椒が利いていて、アリスが食べられるのか心配したが、平気なようだ。

 レタスロールはキャベツロールの代替品だろう。レタスが柔らかく、小さめのロールにしてあるので、難なく食べられる。中身は鶏肉のミンチだろうな。ふわふわな感じで仕上がり、ショウガとバジルと山椒を隠し味に入れたようでスッキリとした味わいに仕上がっている。


「参りました…」


 俺も料理は作れるが、このレベルはちょっと無理だ。素直に負けを認めておく。


「ええ? ふふっ。カレーとスープはお代わりがありますから、どんどん食べて下さいね」


「ああ。ま、これだけあると、食い切れないぞ」


「食べられない分は、冷蔵庫に入れておきますので、また後で食べて下さい。カレーとスープは、一日おきに煮込んでもらえれば三日は持つと思うので」


「ああ」


「お代わり!」


 だが、アリスが思った以上に食べるし、俺も食が進んだので、それほど余らなかった。


 食後に麦茶を飲みつつ、のんびりする。

 詩織がクーラーは苦手だと前に言っていたので、温度設定は高めにして、扇風機が主力。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


 アリスが扇風機に向かって声を出して遊んでるが、俺も小さい頃にやったなぁ。

 指を突っ込もうとし始めたので、それは手を掴んで止めさせる。


「駄目よ、アリス、それは危ないし、痛いんだから」


 詩織も注意する。


「詩織、アリスを連れて、先に風呂に入ってくれ」


「あ、いえ、賢一さんが先に入って下さい」


「じゃ、そうさせてもらおうか」


 別にどちらが先に入ってもいいので、俺から風呂に入ることにした。


「ふう、さっぱりした。じゃ、上がったぞ」


「はい。じゃ、アリス、お風呂、入りましょう」


「なー!」


 アリスと詩織はちゃんと着替えを持って来ていて、用意が良い。


 ……真面目に勉強するか。

 医学書を開く。


「あっ! 駄目よアリス!」


「あはー!」


 どうしたのかと思ったら、アリスが素っ裸で出てきやがった。


「おい、風邪引くぞ。うお」


 続いて詩織がバスタオルを巻いただけで出てくるし。


「み、見ないで下さい。あと、早くアリスを捕まえて!」


 それは難易度が高すぎだろう。ひとまずアリスを捕まえた。


「きゃはっ、なぁー!」


 鬼ごっこのつもりなのか、さらに逃げようと暴れる奴。


「ダメダメ、とにかく、服を着るぞ」


「賢一さん! アリスのどこを触ってるんですか!」


「ええ? いや」


 脇腹はセーフだろ? 指の先がちょっと前の方に行っているが、別に触ろうと思ってやってるわけじゃないし。

 不可抗力というヤツだ。


「来なさい」


 詩織がアリスを引っ張り、脱衣場に連れ戻す。そしてアリスにお説教を始めた。


「いい? アリス、女の子は簡単に男の人に肌を見せたら駄目です。アリスが大きくなって、結婚する相手だけに――」


「なー、アリス、賢一と結婚する!」


「ええ? そ、それは駄目よ」


「やー、結婚するの!」


 あれだな、お父さんと結婚するのぉーって言うノリだな。うちの姉貴も小さい頃はそれを言ったらしいが、今では無かったことになっている。俺も本気にはしない。


「じゃ、トランプしましょうか」


「トランプー!」


 詩織が持って来たトランプで、まずは七並べからやって遊んだ。誰も六や八を止めないので、すぐ終わる。


 神経衰弱もやってみたが、アリスに特別な記憶力は無かった。かなり良い方ではあるが。


「よし、全問正解!」


 一方の俺は詩織の前で神がかった運も出た。ちょっと今の俺、凄くね?

 全部俺のターン!


「うう…」


「賢一さん…子供相手にそれはちょっと…」


「お、おう、そうだな、すまん。次は手加減するから」


 大人げなかった。逆に評価が下がってしまったようだ。失敗した。


「じゃ、アリスちゃん、そろそろ寝ましょうね」


「や、まだ遊ぶの」


「うーん、俺達は勉強しようかと思ったんだが」


「アリスも勉強するの!」


「じゃあ、ちょっとだけな」


 どうせ、子供だから、医学書を読めばすぐ眠くなるだろう。

 そう思って、三人で医学書を読む。


 真剣な表情で、ページをめくっていく奴。


「本当に読んでるのかしら?」


 詩織がアリスの様子を見て言う。


「いや、俺達の真似をしてるだけだって」


「でも……目も動いてるし、なんだかこう…アリスが凄く大人びて見えます」


「そうだな」


 こうしていると、落ち着いていて普通の大学生という感じにも見えるが。


 十一時になったが、アリスは眠気が来ないらしい。


「じゃ、俺達も寝るか」


「そ、そうですね。睡眠の意味で」


「ああ、睡眠の意味で。ところで詩織は門限の方は大丈夫なのか?」


「平気です。今日はお父さんが出張で家にいませんし、お母さんには珠美の家に泊まると言ってますから」


「そ、そう」


 これでアリスがいなければ、そういうコトもできそうなのだが。


「ま、アリスがいるからな」


「ええ、そうですね」


 ベッドはアリスと詩織に使わせようと思ったが、電気を消すとアリスが勝手にベッドから降りて俺に抱きついてしまう。


「本当に何もなかったんですね?」


 詩織がだんだん真顔で疑ってくるのが怖いが、俺はやましいことはしていない。


 仕方ないので、俺とアリスがベッドで、詩織は床で寝ることになった。さすがに三人がベッドに入ろうとすると、狭すぎて密着しないと無理だ。


「むふー」


「だから、くっつくなっての」


「アリスー。夏は暑いんだから、そんな事ばかりして困らせると賢一さんに嫌われるわよ」


 詩織が感情のこもらない冷え冷えとした声を出す。


「にゅっ、賢一、嫌?」


「まあな」


「ごめんなさい…」


「ま、普通に寝るぞ」


「うん…」


 最初からそう言えば良かったな。

 アリスが抱きつかなくなったので、俺は安心して眠りに就いた。

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