表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
医師を志す者達  作者: まさな
第一章 偽りの自分
15/98

第十五話 クールな黒崎を合意の上で脱がす

本日二話目の投稿です。次話は明日いつも通り19時頃に戻します。

 また同じ面子で飯を食う。

 俺、珠美、詩織、黒崎、セリアだ。

 詩織は食事が喉を通らない様子だが、倒れたりしなかったので、結構な進歩だ。


「詩織、大丈夫?」


 珠美も気を遣う。


「へ、平気…、あ、私は気にしなくて良いから、みんなで食べて」


「ま、言われなくても食べてるけど。沙希ちゃんは専攻は何なの?」


 珠美がツインテールの黒崎に向かって聞いた。


「私は心臓外科」


 黒崎は素っ気なく答える。


「あー、それっぽいと思った」


「そう言うあなたは?」


「あたし、眼科」


「ああ…大丈夫かしら」


「なんじゃそりゃあ。こう見えても、留年せずにここまで来たんだぞ。褒めて褒めて」


「留年しないのは当たり前でしょ。午後は?」


「あー、なんかあったけど、なんだっけ?」


「『オスキー対策』だろ」


 俺が教えてやる。オスキーとは四年生の十月にやる実技試験であり、これに合格しないと留年確定である。講座の名前もまんまだ。


「ああ、そうそう、それそれ」


「ああ、一緒ね。でも大丈夫? 自分の選択した科目くらい覚えておきなさいよ。教室、間違えて遅刻するわよ」


 黒崎がそう言うが、こいつの場合、そのまま忘れてすっぽかすと思う。


「大丈夫、大丈夫。夏期講習は全部詩織に合わせてるから、詩織にひっついていけば問題なし。ね、詩織」


「え? ええ…うう、夢に出そう…」


「あらら、重症ね。しっかりしてよー、あたしのナビちゃん」


「ええ? 同じ科ならそれでいいかもしれないけど……じゃ、そろそろ行きましょう」


 教室に入り、真面目に講義を受ける。

 オスキーとはObjective Structured Clinical Examination の頭文字を取ってOSCE、客観的臨床能力試験である云々と教授が説明し、それに珠美がおー、と感動する。


「お前、診察IIの授業、聞いてなかったのか?」


「あはー、寝てたかも」


「あっそ」


 だが、座学と違って実習では眠れない。


 班分けを行う。珠美が俺を羽交い締めにしたので、またしても一緒の班にされてしまった。他は詩織と黒崎。セリアはこの講義は取っていないようだ。


「では、今日は学生同士で向かい合って医師役と患者役を交代し、それぞれを練習する。練習と言っても、実際の診察だと思って患者役もなりきること。なお、現実の診察では観察結果は報告しないが、試験とここでは結果を報告すること。では始めなさい」


「始めろって言われてもねえ。じゃ、詩織、やりましょうか。あたしが先に患者ね」


「ええ」


「じゃ、アンタとか…真田君、私の足、引っ張らないでよ?」


 お前がな、と言いたいが、黒崎は解剖の様子から見ても優秀だ。ウェーブの掛かった髪の毛を、黒の細リボンで左右共に結んで、ツインテールにしている。服は白のブラウスに黒のミニスカートと大人っぽい。


「ああ、それで、どっちが先にやるんだ?」


「まず、私が先生役で、お手本を見せて上げるわ」


 黒崎が言う。


「そりゃ、ありがたいね。じゃ、俺は患者役か…じゃ、病気を考えるから、少し待ってろ」


「早くしなさいよね」


 予め講義で説明を受けたとおり、想定問題集から選ぶ。初めは簡単なのが良いと思い、熱のある風邪にしておく。年齢は高校生、男性、でノートにメモる。


「うえーん、先生、ぽんぽん、痛いよう。うわーん」


「はいはい、大丈夫だからねー。我慢しようねー」


 隣では早くも役になりきった珠美と詩織が始めている。ぽんぽんって。


「ううん、あそこまでやらないといけないのか?」


 俺は何か違う気がして戸惑う。教授は近くを歩いて回っているが、珠美と詩織の組には注意しなかった。


「当然でしょ。では、真田さん、今日はどうされましたか?」


「ええっと、ちょっと体がだるくて、熱っぽいので」


「そうですか。では、体温を測りましょう。何度?」


「37.5でどうかな」


「ちゃんと決めておきなさいよ」


「ああ、うん」


「中途半端ねえ。はい、37度5分ですね。普段の平熱は?」


「ええと、覚えてないけど36度5分かなぁ」


「個人差があるんだから、そこ、注意して欲しいんだけど、まあいいわ。少し、熱が有るようです。いつぐらいからですか?」


「ええと、昨日…」


「昨日の何時からですか?」


「えっ? いや、朝の七時? 起きたら気づいたってことで」


「そ。なら最大は一昨日の夜として33時間くらいね。風邪薬は飲まれましたか?」


「あー、昨日、はい。市販のを」


「薬品名は分かりますか?」


「なんとかエース、喉の薬ですね」


 コマーシャルを思い出して言う。


「喉が痛いんですか?」


「あ、いえ、あんまり」


「は? じゃあ、何で喉の薬を飲むのよ?」


 黒崎が怒ったように聞くが。


「いや、それしか家になかったもので…」


「あなたね、同じ風邪でも症状に合わせた薬を飲まないとダメなのよ。分かってるの?」


「は、はあ、済みません」


 どうせ市販の感冒薬って守備範囲は広くしてあると思うんだが、まあ、風邪に無駄な投薬は止めた方が良いな。


「じゃ、視診ね。症状を言って」


「ええと、だるそうな顔、潤んだ瞳、それだけ」


「ええ? はっきりしないなあ。喉の特徴は?」


「いや、無し」


「無しって…じゃ、聴診ね。言って」


「ええと、呼吸音はやや早い、やや雑音有り、以上」


 問題集を見て言う。


「それは右肺、左肺?」


「指定無し、両方かな」


「君、聴診なら、きちんと聴診器を使いなさい。音が聞こえなくても当てて確認するように」


 巡回してきた教授に指導されてしまった。


「あ、はい。じゃ、少し冷たいですが、ご了承下さい。って、あなたの設定、何歳? まあさかあっちの、小学生並みって言ったら、ぶっ飛ばすわよ」


「い、いや、高校生だから」


「なら、もうちょっと高校生らしく、ううん、まあ、大人しそうな奴ならそれもありか。ふむ…実際の呼吸音は正常ね」


「そりゃどうも。症状はさっき言ったとおりだよ」



「やーだー、聴診器、嫌い~」


「ええ? 珠美ちゃん、これをやらないと、病気が分からないんだよ? 我慢してね」


「やーだー」


 隣は凄いだだっ子の設定のようだ。詩織に同情する。


「母親に押さえてもらったと言う設定にして、続けなさい」


「あ、はい、じゃあ、お母さん、お願いします。じゃ、冷たいけど、少し我慢してね」


「うえーん、詩織先生、鬼、酷いよう、うわーん」


「ちょっと、珠美…もう。はい、少し静かにしててね。お姉さん、音を聞かないといけないからねー」


 真面目にやる詩織も偉い。



「打診は以上ね。見逃しはあった?」


 黒崎は淡々と進めている。


「いや、無いよ」


「難しいわね。初っぱなから…」


「いや、そう難しく考えずに」


「じゃ、触診。では、腹部を触りますね。…ここはどうですか?」


「いえ、痛くないです」


「ここは?」


「痛くないです」


「うーん、じゃあ、肝臓?」


「いえ、痛くないです」


「ふう、熱感、腫瘤はないのよね。肝臓の症状は?」


「特になし」


「ええ? それじゃ、わかんないじゃない」


「まあ、深く考えずに」


「降参。私なら精密検査に回すわ。白血病かしら?」


「外れ。ただの風邪だよ」


「なっ! くっ…覚えてなさいよ」


 恨まれてしまった。


「いや、サービス問題のつもりだったんだけど、じゃ、交代だね」


「ふん…じゃあ、ちょっと待ちなさいよ。思い切り難しいのを選ぶから」


「おい…初めは簡単なので良いだろ」


「バカね、そう都合良く順番の患者が現れると思わないで。ああ、これが良いわ。くくっ」


「あのなあ、一応、授業の練習なんだし…」


「真面目にやる。よろしくお願いします、先生」


「はい、よろしくお願いします。学生の真田です。黒崎さん、今日はどうされましたか?」


「お腹が痛くて…死にそうです」


「え、ええ? いきなりかよ。どんな風に痛いですか?」


「きりきり…」


「それは、いつぐらいからでしょうか?」


「昨日の夜中からです」


「うーん、じゃ、視診からだな。症状は?」


「激しい全身の発汗、顔面蒼白、荒い呼吸」


「うーん、救急に回して、集中治療室へとりあえず入れたくなったけど…」


「真面目にやりなさいよ。タイムリミット、あと15分ね」


「ええ? やっぱり集中治療室じゃないか。手術で切開するしかないんじゃないの?」


「いいから、診察しなさい」


「じゃ、聴診を行います。冷たいですが、ちょっと我慢して下さいね…」


「んっ」


 びくっと震える黒崎にちょっと色っぽい物を感じるが授業中だ。あくまで変な位置にならないように、少し上側を当てる。


「そこ、痛みのあるところと違うんですけど」


「ううん、でも、これより下だと、スカートを降ろさないと」


「ふっふっふっ。さあどうする?」


 こいつ。最初から俺が当てられないのをわざと選んだようだ。


「君、実際の診察と同等にするため、スカートを脱いでもらいなさい」


 教授があり得ないことを言い出す。


「えっ?」

「ええっ? そこまでするんですか?」


「当然だ。練習できちんとできない奴は試験でも落ちるぞ。それに、女性の患者も診ることになるし、その逆もある。羞恥心への対応も必要だ。ま、そちらの患者さんは多少、悪巧みがあったようだから、自業自得だが」


「うぬぬ…」


「えっと、じゃあ、仕方ないですね。黒崎さん、申し訳ないですが、スカート、少し外してもらえますか。ほんの少し、聴診器が下にずらせる程度でいいですから」


「脱げばいいんでしょう、脱げば。はい、さっさと診察しなさいよ」


「いや、だから、何も全部脱がなくたって」


 ブルーの横ストライプの下着が目に飛び込んでくる。非常にやりにくい。


「うっわー、賢一、マニアックねぇ。見て見て、詩織、彼氏が浮気中だよ」


 余計なところで珠美が茶化してくるし。


「うっせえ、お前は幼稚園児の設定だろ」


「お兄ちゃん、エローい」


「黙れ。じゃ、ちょっと我慢して下さいね…」


「んっ」


 ああもう。


「はい、息を吸って…吐いて…おい、息をしろよ」


「あ、ああ、ごめん。すう、ふう、これでいい? そこまで真面目にやらなくたって」


「そうも行かないだろ。呼吸音、正常なのを実際に色々聞いて置かないとと分かんないんだし。これも練習だ。症状は?」


「特になし。便は軟便で黒かったです」


「出血か。黒崎さん、月経はいつですか?」


「えっ、ええと、これ、真面目に答えるんだよね」


「いや、それは適当で良いぞ」


「じゃあ、先週、です」


「大腸の内出血だな。緊急輸血と内視鏡検査だ」


「むう、正解。何でそこまでで分かるのよ」


「いや、今にも死にそうで、出血があって、そう言う症状なら、それしかないだろ。逆に症状が激しいと分かりやすいんだよ」


「ちっ。じゃあ、別のをやる? 教官、これ、途中でバレたらどうするんですか?」


「最後までやりなさい。これは診察のマナーも試験するもので、病気を診断する速度を競っているわけではない」


「分かりました。じゃ、触診ね。触診?」


「お前が決めたんだからな」


「え、えっと、マジで触っちゃうの?」


「ああ、だが安心しろ、パンツは触らないから」


「と、当然よ、バカ」


 下腹部、特に大腸の内出血を疑っているので、下の方を触らざるを得ない。


「んっ、あんっ」


 黒崎も黒崎で、また妙に敏感で、俺の腕を押さえて、喘いでしまっている。


「うわ、詩織、見て見て、あそこ。凄いプレイ」


「ば、バカ。そんなんじゃない…むう、真田君のバカ」


 詩織も不機嫌になってしまった。


「い、いや、違うぞ。これは真面目な診察だからな」


 一応釈明しておくが、理不尽だ…。


「そこ、私語は慎みなさい。評価、下げるぞ」


「済みません…」


 酷い目に遭った。次は絶対、男子と組もう。 

 俺は心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ