図書館
目の前には整列された本が広がっていた、男よりも少しだけ背の高い、木製の棚に収められていた。
一つの棚に何十冊もの本が収められていた、それがはるか遠くまで、等しい間隔で並んでいた。
緑色の絨毯、突き抜けた天井、広い空間と棚、図書館とも言うべき場所に男は立っていた。
男は歩き出した、目的は無い、ただ闇雲に本の森を歩きだした。学術書、小説、洋書、和書、様々な背表紙が男の目に飛び込んでいく。
しかし、一つだけ本が入っていない棚があった。その棚にはお菓子が入っていた。袋詰めにされ、本と同じように整列していた。
男は両手に一つずつ、それらを手にとった。何時の間にか、目の前には受付があり、そこには黒髪の女性が立っていた。
「こちらへ」
一言だけ告げると、その隣にある扉を開け、男をその中へ案内した。
そこには机と椅子、何も入っていない棚があった。机の上には、紙と鉛筆が置いてある。とても狭い部屋だった。
その時、男は不安に襲われた。どこからともなく、全身を包み込む。
男はお菓子の袋を持ったまま部屋を飛び出し、元の棚を探した。本の森を駆け巡った。
しかし、元の棚は見つからなかった。あの女性に聞こうと考えるも、再び受付を見つけることは出来なかった。
仕方なく部屋に戻り、そのお菓子を口にした。甘味が口の中に広がり、襲われた不安は無くなった。
食べ終えると、男は再び本の森へ戻った。今度はお菓子を手に入れる為に。
何度かそれが続いた。いくつ続いたかは分からない。しかし、ある時、部屋でお菓子を口にした時、自分の変化に気がついた。お菓子を持った手は皺がより、血管が浮き出ていた。
男は驚愕し、お菓子を床に落としてしまった。するとお菓子はあとかたも無く、消えてしまった。
男は慌てふためき、再び本の森へ行こうと扉のノブに手をかけた。しかし、その扉は二度と開かれる事は無かった。
狭い部屋に置かれた木製の棚には、一冊の本も無かった。