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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

オレオレ、オレだけど。

作者: 高千穂 絵麻
掲載日:2015/12/14

 仕事用の携帯電話が目の前に置いてある。

 デスクには、メモと筆記用具、それと電話帳。


 電話帳の適当なページをめくり、打消し線の入っていない相手を探す。


 電話帳は地域ごとに分かれている。

 電話帳には世帯主の名前が記載されている場合が多い。

 その中から、女性らしい名前で、ある程度古風なものを探す。


 条件に合った名前が見つかった。


 地域は、高級住宅街から少し外れた、昔ながらの木造一戸建てが多い地域。

 名前もそれらしいものだ。


 オレは、仕事用の携帯電話を取り上げ、その電話番号を入力する。


 コール音が鳴る。



 オレは、地方の三流大学を二浪して入り、三年の夏に自主退学した。

 仕事を探して都会に出て、バイトのかたわら、営業のような仕事をしていた。


 二年同棲していた彼女が妊娠した。

 多分、すごく酔ったあの夜だ。

 その夜から少したって、彼女から妊娠検査薬が陽性だったと聞いた。

 だんだんと、腹が大きくなっていた。


 おめでた婚なんてからかわれたけど、腹を決めて役所に届けを出すことにした。



 そんなことを考えていると、電話がつながった。


『もしもし?』

 ビンゴ! 女性の声だ。それもだいぶ歳を取っている様子だ。

「あ、オレオレ、オレだけど」

『ん? ああ、J太郎かい? どしたん』


 J太郎? なんだ、変な名前だな。


「そ、J太郎。ちょっとさ、風邪ひいちゃって」

『あらぁ、そりゃ大事にせんとなぁ。確かにちょいと、声が違っとるような気もするが、なんじゃうまいもん食っとるんか? 熱は無いんか?』


「うん、大丈夫だよ」

『そっかぁ、ばっちゃん、それ聴いてホッとしたわぁ』


 よし、まずは成功。警戒は持たれていないようだ。


「ちょっと困ったことがあってさ、携帯変えたんだよ。電車でカバン置いていっちゃってさ」

『あらあら、そりゃ困ったわなぁ。どうりで、知らね番号だとおもったわ』

「今、仕事携帯から電話してるんだけどさ、ちょっとばっちゃんに頼みたいことがあって」

『どしたん、ばっちゃんにできんなら、何でも言いなぁ』


 いいぞ、食いついてきた。


「それがさ、言いにくいことなんだけど、すぐに大金が必要になってさ。電車で忘れちゃったカバンに、仕事で集金したお金が入っててね……ううぅ、やっちゃったよー、オレもうダメだぁ」

 べそをかいたような声を絞り出す。ここからは演技の世界だ。なりきれ、と自分に言い聞かせる。

『あらあら、そりゃ……』

 相手が喋り始めても、言葉を続かせないようにまくし立てる。

「それでさ、明日にはその金工面しないと、会社が不渡りで倒産しちゃうかもなんだよ。オレのせいで、会社潰しちゃうかもしれないんだ」

『あらあ……』

「もしかしたら、損害賠償とかで、その金の分だけじゃなくて、ううっ、会社が倒産した時の金も請求されちゃうかもしれないんだよ。オレにはそんな金、すぐには用意できなくて……」

 少し涙声に聞こえるような喋り方で、マシンガントークを繰り広げる。

『それはいくらなんだい?』


 お?


『ばっちゃんが手伝えるなら、いくら入り用なんだい?』


 キター! ヒットだぜ!


「そんな、やっぱ悪いよ、オレの失敗で、ばっちゃんに迷惑かけちゃうし……ヒック」

『そんなん気にすんな、可愛いJ太郎のためだ、心配すんな、ばっちゃんだっていくらか持ってるわい』

「でも……」

『いいっていいって。で、いくらなんだい?』


 オレは、高級外車が買えるくらいの金額を言った。


『うわぁ、それは大金だねぇ。J太郎、大変だったねぇ』

「ばっちゃん、ごめんね、こんなすぐには無理だよね」


 若干の沈黙。


『ばっちゃん、そこまでは持ってないけど、これくらいなら手伝えるよ』


 相手のばあさんが言ってきたのは、高級国産車くらいの額だ。


「ほんとうかい、ばっちゃん! ありがとう、助かるよ!」

『でも、大丈夫かい。全然足りないと思うけど』

「いいんだ、他にも信用できる友達とかからも借りて、何とかするから。ほんと、ばっちゃんありがとう!」

『そうかいそうかい、J太郎がよろこ……』

「じゃあ、オレは他にも工面しなくちゃだから、ばっちゃんのところに、信頼できる会社の同僚を行かせるね」

『ありゃ、J太郎は来ないのか……』

「これから他の友達に連絡しなくちゃだから、ごめんね、ばっちゃんのところに行くやつは、本当に信頼できる奴だから、大丈夫だよ」

『そうかいそうかい。それじゃあ待ってるからねぇ』

「うん、ありがとうね、ばっちゃん!」


 電話を切る。


 当然、相手のばあさんとは全く面識がない。

 電話だけなら息子でも孫でもごまかせるが、対面となればそうもいかない。

 振り込ませるにしても、記録から足がつく。

 そうならないように、いろいろと手を打っている。


 この携帯も、名義はオレじゃない。

 公園やガード下にたむろする家の無い人に金を握らせ、銭湯に入れ、服をくれてやり、100円ショップで買った判子を持たせ、安売り携帯ショップに行かせて契約したやつだ。

 何かあっても追及されるのはオレじゃない。


 だから、オレが相手のばあさんに会いに行っても、信頼できる会社の同僚、っていうことで通す。

 もう一度電話帳の住所を確認し、近くまでタクシーで向かう。



 彼女には、オレの仕事はテレアポみたいなもので、たまに外回りもやると言っている。

 大金を持って帰るときもあるが、その時は仕事がうまくいったから臨時ボーナスをもらった、と言っている。

 嘘は言っていない。詳しくは話していないだけだ。


 だが、子供も生まれるんだ。今回ので最後にして足を洗おう。

 これからは、真っ当に生きて行こう。



 少し離れたところでタクシーを降り、住所の家まで歩く。


 それなりに大きい一軒家だ。

 セレブというほどではないが、そこそこ裕福そうではあった。

 庭に植木があり、家庭菜園には野菜がなっていた。

 

 表札を見ると、苗字は同じだが電話帳には無い名前が刻んであった。

 おそらく、亡くなった旦那さんの名前だろう。

 

 オレは玄関の扉をノックする。


 少しして、中から声がする。

「鍵は開いてるから、入ってきてくださいなー」

 電話で聞いた声だ。

 

 玄関を開け、中に入る。

 靴を脱ぎながら、声をかける。

「おばあさん、僕、J太郎君に言われて来ました。お邪魔しますね」

 

 中に入ると、廊下を挟んで居間につながっていた。

 その隣の寝室から声が聞こえる。

「ああ、ああ、お友達さんかい、今回は、J太郎を手伝ってくれて、ありがとうございますね」

 

 見ると、ばあさんがベッドの上で座っていた。

 手には杖を持っている。

 

「このところ急に足腰が悪くなってね、立つのも大変になってきてしまったんですよ」

「それは大変ですね。それで、J太郎君から聞いていますが、お金のご用意は」

「それなんですが、この足腰でしょう、銀行まで行けなくて、用意できていないんですよ」

 

 オレは内心舌打ちする。

 

「じゃあ、僕がお手伝いしますよ。通帳と印鑑の場所を教えてください。タクシーを呼びますから、おばあさんをおぶって銀行まで行きますよ」

「あらあら、そこまでしてもらって、すみませんねぇ。本当、J太郎はいいお友達に恵まれて、幸せですよ」

「いえいえ、いいですって」

 

 オレは、ばあさんから教えられた場所から、銀行の預金通帳と印鑑を取り出した。

 一瞬だけ中を見るが、高級外車が何台か買える金額が記載されていた。

 

 適当なことを言いやがって。そう思ったオレは、通帳と印鑑をポケットに入れた。

 

「さあ、おばあさん、おんぶしましょう」

 ベッドに座っているばあさんが乗っかりやすいように、オレはばあさんに背中を向けてしゃがむ。

 

 これだけの金をもらっちまうんだ。少しくらいは親切にしてやろうか。


 オレは、ばあさんが乗っかってくるのを待つ。

 オレの肩にばあさんが手を乗せる。


 ばあさん、こんなに細くてしわくちゃな手で、きっといろんな苦労をしてきたんだろうなあ。


 人生の終盤で、オレみたいなヤツにいいように騙されて、ばあさんの人生、なんだったんだろうって思うよな。

 オレ、この仕事辞めても、ばあさんの事、絶対忘れない。

 ばあさんの金で、人生やり直して、真っ当な生き方をするから、許してくれよな。


「いいかい、乗るよ」

「いいですよ、どうぞ」

「悪いねえ、よいしょ。どうだい、重たいかい?」

 ばあさんは、思いの外、軽かった。


「重たくなんかないよ、大丈夫」

 ばあさん、こんなに軽いんだなあ。ごめんな、ばあさん。

「そうかいそうかい。面倒をかけますねえ、お友達の方」


 すると、首の後ろで、ちくっとした痛みがあった。


 オレの意識が闇の中に沈んだ。



 * * * * * * * *



 頭がもうろうとする。

 耳からは、プッ、プッ、と定期的に鳴る電子音が聞こえる。


 うっすらと、目が感覚を取り戻す。

 

 まぶたを開けるというより、元々まぶたが開いていた?

 徐々に視界が鮮明になっていく。

 

「意識が戻ったようです。脳波正常」

 

 なんだここは? 身体が動かない。

 

 視界に入ってくるのは、緑色のガウンか前掛けか、そんなのを羽織った奴。

 ところどころに赤い斑点があるが、メガネが無いのでよく判らない。

 自慢じゃないが、裸眼では左右共に視力0.1だ。

 同じ色の水泳帽みたいなキャップと、ピンク色のマスクをしていて、見るからに怪しい。

 

「まぁいいだろう。どうせ身体が反応しないように、麻酔をかけているんだからね」

 

 あれ、ばあさんの声だ。ばあさん、何言ってんだ? 麻酔?

 確かに身体の感覚はまるでない。

 目は見えるが、向きを変えることができない。

 

 天井に鏡のようなものがある。

 鏡には、オレ? なんかずっと目を見開いているような感じだ。

 そして意識を顔から下へ移していく。

 

 オレの首から下に、緑色のシートがかけられていて中央でそれがパックリと開いている。

 その中には、赤や黒っぽい色をした、ヌメヌメしたものがヒクヒクしている。

 そこから銀色のハサミのようなクリップやら、熊手みたいなものやら、いろんな管やらが生えていた。

 その中に、何人かが手を突っ込み、何か赤黒いものを出して、どこかへ持って行く。

 

「人工心肺、稼働正常」

「腎臓、膵臓の摘出完了」

 

 なに、何を言っているんだ、こいつら。

 

「まぶたは切開済みだ。これから眼球の摘出に入る」

 

 へ? 眼球? どういうことだよ。

 

 オレの右目に、誰かの手が伸びてくる。もう一方の手には、小さいナイフのようなもの。

 

 グチュッ。

 

 口を開いたままチューインガムを噛んでいるような、そんな音がして、右で見ている天井が、少し近くなる。

 その瞬間、色とりどりの光が散ったかと思うと、真っ暗闇の中にチリチリとした光が生まれ、右からの光が一切なくなる。

 

 グリュッ。

 

 今度は残った左目から流れてくる映像が、自分の意識しない方向へ曲げられる。

 一瞬足元へ向けられた視線の先に、あのばあさんがいた。

 

 ばあさん。

 なんだ、立てるんじゃん。

 おんぶなんかしなくてよかったじゃん。

 

 激しい光の粒がまき散らされ、一切の暗黒に包まれる。

 

「眼球摘出、完了」

 

 そんな声が聞こえる。

 そして続く、首から下の、チューインガムのような音。

 

 そうだ、このばあさん連れて、銀行行かなくちゃ。

 タクシーは呼んだっけかな。まぁいいや、流しのタクシーを拾えば。

 

 これ終わったら、もうこんなことは辞めよう。

 オレも、パパになるんだしな。

 生まれてくる子は、男かな、女かな。

 名前はどうしよう。


 J太郎? ははっ、ないない。

 ……。



「よし、あらかた取ったな」

「はい、ほとんど移植できる部位は摘出しました」

「こういう奴なら足も付きにくい。いなくなったところで社会もキレイになって、人助けにもなる。万々歳じゃないか」

「えっと、この心臓は、どうします? まだ若くて元気そうですけど」

「ああ、こいつの心臓はいらんよ」

「なぜです?」

 

「オレオレ詐欺をやるような奴だ、心根が腐っていて使い物にならん」

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[良い点] 新年早々、結末にディープインパクト~ッ‼ 凄い衝撃と同時に「本当にあるかも?」みた いなところが、本当に素晴らしかったです‼ [一言] ランキングから、こちらにアクセスさせて頂きま …
[良い点] この物語、ほんの小悪党が真性の悪に食い尽くされていく様が何とも心地よかったです……! [気になる点] 悪いのは脳なので、心臓も取ってしまえば良かったのに……。 ――って、ま、良いですか別…
[良い点] ビクっガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ [気になる点] ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…… こここここわいいいいい…… [一言] ガタガタガタガタガタガタガタガタ…
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