無反応な妹に悪戯してみたら。
妹が好きな人、妹が好きで好きで堪らない人、そうでもない人。お先に一言……
「妹は正義!」
ごめんなさい。本編をどうぞ。
ある夏の夜。俺がソファにぐったりと身体を預けながらリビングでテレビを見ていると、風呂あがりなのか、キャミソールに短パンというラフな格好をした妹が入って来て、繋がっている隣のキッチンの冷蔵庫から中身が麦茶のポットを取り出してコップに注いで飲み始めた。
妹の肌は茹でたように赤く上気していて艶かしく、汗が出るのか首に回していたタオルで額を拭く。
コップを空にすると流しに置いてポットを冷蔵庫に元に戻すと、ペタペタ鳴らしながらフローリングの床を歩いて俺の右隣に無言で座った。
テレビを観ながら流し目に横に座った妹を盗み見る。パンダのように垂れたお茶目な目。うっすら桜色をした唇。ぷくりと柔らかそうなほっぺ。タオルを取ったのか、腰まで届く長くも綺麗な長髪から覗く首筋。それに、俺の肩までの高さの伸長は、どことなく父性をくすぐる。
一言で言うと、かわいい。
これに尽きる。
「……」
無言でテレビに映る最近人気が出ているソロのアイドルを淡々と見る妹は、姿勢が良く背筋がピンと伸びている。
「なぁ……」
「……」
呼び掛けてみたが、反応は無し。
何を考えているのか、わからないくらいに無言で、無表情を保っている。
それでも構わず会話のキャッチボールを試みる。
「最近はどうだ?」
「……」
「何かいいことはあったか?」
「……」
「お風呂は気持ち良かったか?」
「……」
「アイドルの娘かわいいな」
「(ピクッ)……」
「お前はああいうアイドルとか、好きか?」
「……」
無言。無反応。無対応。無愛想。
どの問いも軽く無視。受け取るどころか、振り向きも見もしない。
ちょっとだけ肩が動いた気がしたが、気のせいだろう。
会話も無い、無言の観賞会はどこか居心地悪く、なんだか心がざわつく。
それが嫌で、なんとなく妹に声を出させてやりたくなった。
「……」
妹は一心不乱に、というか、黙々と何気なくテレビを見ている。そこに番組への興味とかは無いように思えた。てかそう見える。
そんな妹の脇にゆっくりと手を伸ばし、近付かせる。僅か数センチという所で止め、見定める。
「……」
何も喋ろうとも動こうともしない妹の脇を狙い、沈黙を絶とうと、そこから一気に手で脇を鷲掴み五指を細かく動かした。
「――っ(ビクンッ)」
すると妹は驚いたのか、目を大きく開いてこちらを見た。
そんな様子に構わず俺はそのまま指を動かし続け、右手で左脇をくすぐっていたが、次に左手も加えて両脇をくすぐり始めた。
「~~~~~っ」
それを続けていると、くすぐったいのか妹は抵抗をし始め、ソファの上で倒れて横になりながらも首を振ってダメとでも言うように訴える。
が、俺は止めずにくすぐっていた。
妹は舌を出して身悶え苦しそうにして、目は涙で潤んで泣きそうになっていた。それはとてもかわいくて、つい調子に乗ってさらにくすぐろうと、他の箇所もくすぐり始めた俺。
無反応だった妹が無言でも、それでも反応するのが楽しくなったのだろう。俺は微々たる抵抗をするか弱い妹の身体をくすぐり、その反応を楽しみ、愉しんでいた。
「……っ、~~~~~ぁっ」
小さい呻き声。それは幻聴か空耳かわからない程にちいさく、それが妹が発した悲鳴だと気付かない程に弱いものだった。
それではっとして妹の姿を見る。
息は乱れ、服は胸元までめくれ、顔は暑いのか赤くなって上気していた。
「ご、ごめ――」
俺は苦しそうに息を整えるだけで動こうとしない妹を見て、なんてことをしたんだと罪悪感を覚えた。
「――あ」
その罰なのか、俺はソファの上で後退した為に手を着いた所がすべり、床に上半身が落下した。
「ぐぁ……っ」
打った手首と変に捻って痛む首。それが結果として災いとした。
失敗したなぁと思った。変に妹なんか触るから、神が罰を下したのだ。きっとそうに違いない。
「……いって」
痛い。体勢が体勢だから、起きようにも力が入らない。
呻いて痛がることしか出来ない不様な姿。
俺、カッコ悪い…。
「……だい、じょうぶ…?」
「……あ?」
俺は自分以外の声がしたのに驚き、目を開く。そこには俺の顔をソファの上から覗き込む妹の姿があった。
「……えっと……ごめんなさい」
申し訳なさそうに落ち込み、どうすればいいかわからないって言いたそうに目を伏せる。
「なんで謝るんだよ……てか起こしてくれ。一人じゃ起きれない」
「あ、うんっ」
ソファから降りて俺両腕を掴んで引き起こしてくれる。重たそうだったが、俺も力を込めてなんとか起き上がった。
「……ごめんなさい」
「……だからなんで謝るんだ。悪いのは、俺だろ」
「うぅん……わたし、おにぃちゃんをずっと無視してたから……だから、おにぃちゃんに悪かったなって……」
「自覚あったのかよ……それならなんで無視してたんだ」
「だって……」「あぁ」「恥ずかしかった……から」「あぁ……あぁっ?!」「ひゃんっ」
伏せた目線をさらに伏せ、聞き取りにくい小さなボソッとした声で答えたのが、それだった。
「恥ずかしかったっ?なんで??」
「……だ、だって……おにぃちゃんのこと、好き……だから……近くに居る、のも……やっとで……わたし、口下手だし……どう答えればいいかわからなかった…し。それに……」
「それに?」
「おにぃちゃん……わたしと居て、楽しい……の、かなって、思って」
なんだか聞いてると、色々考えたいた自分がバカらしくなってくる。
だから俺は呆れ嘆息し、妹の頭をわしゃわしゃとなでた。
「……ん」
「別にお前がどうこう言うことじゃないだろ。俺はお前と居て楽しいぞ。そりゃ会話がないのは寂しいけどさ……それでもお前はこうやって俺の隣に居るわけだしな」
「……おにぃちゃん」
「口下手だろうがなんだろうが、俺はお前の兄だし味方だ。うじうじ考えてねぇでもっと俺を信じろ。なっ?」
「……うん。おにぃちゃん、優しい……だから、好き」
「お、おうっ」
俺は不覚にも妹の不意な笑顔に見惚れてしまった。その幸せそうな妹の笑顔に。
「おにぃちゃんはおにぃちゃんだけど……わたしはおにぃちゃんが好き、だよ」
「……あぁ。俺も好きだぞ」
何回も好き好き言われると、さすがに照れるが。まぁ、言われて嫌じゃないし、むしろ嬉しいからいいけど。
「そう……じゃなくて、えと……」
困ったようにうつ向いて言葉を探す。
「その、ね……異性として、妹じゃなくて……女の子として、好き、……なんだよ」
「……」
「……おにぃちゃん?」
「……」
「……おにぃちゃん」
「……」
「……ん」
「――!?!??!」
好きと言われ、異性として……女の子として好きと、妹に言われて石のように固まっていると、不意に唇に柔らかい物が当たる感触がした。
それではっとすると、妹の顔が至近距離にあり、目を強く瞑って黙っているのを見て、俺は声も出せずにただただ驚愕してまた固まった。
どれくらいだろうか。数秒といえば短く、数分といえばあまりに長い時間、良くわからない沈黙で保っていた。
「……ん、ぷはっ」
「……」
妹の顔が離れ、唇に当たる柔らかくも生暖かい感触は無くなり、俺は何も言えずにそのまま茫然としていた。
「……キス、しちゃった。初めてを……おにぃちゃんと…………えへへ」
キスという単語に反応した。
「え、今、何を……」
「……キス、だよ」
「誰が、誰と」
「わたしが、おにぃちゃんと」
「どうして……」
「わたしがおにぃちゃんが好きで……おにぃちゃん、ボーッとしてた、し……チャンスかな、って……思った……へへ」
わかってはいたけれど、訊かずにはいられなかった。
妹は何がそんなに嬉しいのか、頬を弛めニタニタとにやけている。
どうしてこうなった。俺は会話を出来ずにいる妹とちょっとコミュニケーションが取れたらな、ぐらいにしか思ってなかったのに……なんでこうなる。なんでこうなった。
どこで間違ったのだろうか。
「おにぃちゃん……大丈夫?どこか怪我してないぃ?」
妹は焦点の合わない目をしている俺が心配になったのだろう、顔を近付けて覗き込んで来る。
「やめろ――!」
「きゃっ!」
俺はそれを拒み、近付く妹を押した。
妹は強く倒れ込み、どうして?みたいな弱々しい顔をする。
「ご、ごめん……」
俺は怖かった。妹を、実の妹が近くに居ることが、一気に距離を詰めたことで途端に怖くなったのだ。
「……わたしが、悪いの……おにぃちゃんに迷惑ばかり、掛けるから……ごめん、ごめんなさい……うぅっ」
妹は謝り、泣き始めた。
それで俺はどうしていいかわからず、ビク付きながらも妹に近付き、どこか怪我してないか、どうして泣いているのか、キョドりながら確かめようと妹肩に触れようとした瞬間、
「……んっ?!」
「……んちゅ」
妹は勢い良く俺を抱き締め、先程と同じように唇同士を合わせてキスをした。
「……ん、んーっ、んーーんっ??」
「……ん、……んちゅぷ、ちゅ……はむ」
何を言ってるかわからない叫びで抵抗を示していると、妹はそれを眼中なしとでも言うように俺の唇を貪り、遂には唇を割って舌を入れて来た。
「――っ!?!」
「……んちゅ、はむ……ちゅぷ、ぷ……ちゅる、んちゅぷ……じゅるる」
そのヌメヌメと湿っていて体温が伝わる幼い舌で無差別に口内の中をまさぐり、舌と舌を器用に絡ませ吸ったり唾液を啜ったりと、大人のするようなキスを妹はしてくる。
俺はまた押し退けて怪我でもしないか不安で力を加えての抵抗が出来ず、ただ妹がしたいように固まっているしかなかった。
「……んちゅ、ちゅぷ……じゅるっ……ぷはっ……はぁ…はぁ……んっ」
妹は存分に楽しんだのか、口を離して息を整える。肩に腕を回したままではあったが。
「……さっき、ね……おにぃちゃんがくすぐってきた時ね……指が、その……敏感な所にね、当たって……それで、ね……?おにぃちゃんを見てたら……我慢、出来なくなっちゃった」
段々と妹が何を考えているのかわからなくなっていた。聞けば聞く程に、怖く、恐ろしく、妹の行動が信じられなくなった。
何より、それを好み、愉しむ自分が怖い。
「おにぃちゃん……好き。誰よりも、何よりも……わたしはおにぃちゃんが大好き……ん」
再度唇を重ねてくる。
もう俺の身体は動かない。妹の好きにさせるしかない。
怖いと同時にキスの気持ち良さ、妹とするキスの背徳感、異性と認識してしまう妹からのキスの快感が……心を蝕み悦びへと変える。
「……おにぃちゃんは?」
「…………え」
唇を離し、上目使いで問う妹。
「おにぃちゃんは……わたしのこと……好き?」
「……好き、だよ」
「嬉しい!」
俺の答えが余程嬉しいのか、想い余って抱き着いてくる。
俺は即答出来なかった。すぐには返事が出来なかった。好きかと問われ、大好きではあるはずなのに、それは妹としてであるはずで、異性とは別で……意識していないはずで。だから男として好きと言ってくれる妹の問いに、間を空けて答えた。答えてしまった。
――これでいいのだろうか?
――これでいいのだろう
妹は喜んでくれてる。それでいいではないか。世間がなんだ。親がなんだ。
自分達が良ければそれでいいではないか。
――本当に?
わからない。
けど、会話の無かった兄妹の間には埋まるはずの無かった溝が埋まっている。
例えそれが世間一般の常識から逸れているのだとしても、愛する妹が望むのなら、受け止めるのが兄と言うものなのだ。
――だから
「好きだ」
「おにぃちゃん……!わたしもだよっ」
「あぁ」
「嬉しい……嬉しいよぉ!」
「「ちゅ」」
またキスを交わした。それが誓いだとでも言うように。
これからどうなるのかはわからないけど、俺は異性として認識してしまった以上、実の妹でありながら女として意識してしまった以上、逃れることのない運命に立ち向かい、愛すべき妹と結ばれるその日まで……大切にしようと思う。
それが報われなかったとしても。
「おにぃちゃん……大好き」
妹の笑顔が、一番だから。
最後までご拝読ありがとうございます。
お疲れ様でした。
妹が攻め、兄が受け……そんな内容でしたがいかがでしたでしょう?楽しめましたか?楽しめましたのなら、恐悦至極、嬉しい限りです。
もし楽しめて頂けなかったのなら、それは残念に思います。
どちらにしても、読んでくださった皆様に感謝、感謝です。
どうも、ありがとうございましたm(__)m