おごりジュース
「おはよう、啓太。今日も遅刻ギリギリだな。明日から朝早く学校にきてバスケやらないか?汗をかくと元気が出るぜ!」
声をかけてきたのは同じクラスの森岡だ。森岡は頭はものすごく悪いが運動はものすごく得意という極端なやつだ。
「おはよう、森岡。悪いが朝はゆっくりしたいんだ。昼休みならいくらでもバスケやってやるから。」
俺がそう言った後、森岡がさびしそうに言った。
「そっか、朝はやっぱりつらいよな。じゃあ昼休みに思いっきりバスケやろうぜ。」
「おう!」
チャイムが鳴ったので俺と森岡は席に着いた。
担任の先生が教室に入ってきて黒板に人の名前を書き始めた。
「え〜と、転校生を紹介する。速人君、入ってきなさい。」
教室のドアがガラガラと音を出して開いた。
「神速人君だ。仲良くしてやれよ?では速人君、軽く自己紹介しなさい。」先生の言葉の後、転校生が口を開いた。
「神速人です。青葉第二中学から来ました。前の中学では陸上部に入っていました。よろしくお願いします。」
「はい、速人くんの席は森岡の後ろだ。」
転校生は森岡の後ろに案内されて静かに座った。
チャイムが鳴り、休み時間になった。
森岡と転校生が話をしていたので行ってみた。
「何話してんだ?森岡。」
「速人ってさ、足が早いらしいぜ!だから、昼休みに100M走で勝負しようぜ、って話してたんだよ」
森岡が楽しそうに話した。
「あ、こいつは啓太。いつも遅刻ギリギリに登校してくるんだ。趣味は勉強!」
「何言ってんだよ。趣味が勉強のはずないだろ?もう少し俺をほめるように紹介してくれよ。」
「無理だ!啓太のほめるような所は一つもないからな!はははははははは」
「なんだよ!その不気味な笑いは!それに、俺のほめるべき長所がないだと?運動馬鹿には言われたくないね!」
俺はむきになって森岡に怒鳴り付けた。しかし、森岡は挑戦的な態度で言った。
「じゃあ、啓太が運動馬鹿に運動で勝ったらほめてやる。ってことで今日の昼休みにグラウンドで100M走だ!ビリだったやつはジュースをおごる!このルールでどうだ?」
チャイムが鳴り、みんなが席につく。
「よし、いいだろう!じゃあ昼休みな!」
そう言って俺も席に着く。
負けなきゃいいんだ。
森岡に勝てばジュースをおごってもらえる。
もはや俺の長所がどう、とかいう事は関係なかった。今まで足の早さでは森岡に負けたことはない。
昼休み
「啓太!行こうぜ、グラウンドに!」
森岡が自信満々な顔で言った。
「森岡、お前には悪いがジュースはおごってもらうからな。」
そして、俺と森岡と速人はグラウンドに到着した。
「着いたぞ。さぁ勝負だ!森岡!」
「なぁ、啓太。気が付いてないようだから言っておくが走るのは俺ではなく速人だぞ?」
「ちょっと待て。走るのが速人ってどういう事だ!」
「俺が走るなんて一言でも言ったか?俺は運動馬鹿に運動で勝ったらほめてやると言ったんだ。たしかに、お前をほめるのは俺だが、走るのは運動馬鹿だ。運動馬鹿イコール俺ということではない。」
「………………っ」
はめられた。森岡は人をはめることに関してはものすごく頭が働く。
しかし、俺が速人に勝てば良いんだ。陸上部だかなんだか知らないが勝てば良いんだ。
「まぁ、俺が勝てば良いんだろ?さっさと走ろうぜ!」
速人が口を開いた。
「悪いけど手加減は、しないよ。やるからには全力でやる。」
「そっちのほうが張り合いがあっておもしろいぜ!」
スタートラインに立つ。精神を集中させて…
「位置に着いて!よーい、ドン!」
俺はその瞬間勢い良く走りだした。
しかし、あっと言う間に速人に抜かされた。
早すぎる、さすが陸上部だ。だが、ジュースはおごってもらうぜ!後半からラストスパートをかけて速人の横に並ぶ。
しかし、どうしても抜けない。そして…
「ゴーーーール!勝者、速人!記録11秒67!」
負けた。中学三年生とは思えない早さだ。ちなみに俺の記録は11秒77。おしいと言えばおしいが負けたことにかわりはない。
「約束どおりジュースはおごってもらうぜ。ちなみに、俺と速人にな!」
「どうしてだ?俺は速人にだけジュースをおごれば良いんじゃないのか?」
「俺がそんなこと言ったか?負けたやつはジュースをおごると言ったが誰におごるとは言ってないぞ?つまり、啓太は俺の作戦に引っ掛かったと言うことだ!はははははははは」
「………わかったよ。二人分おごれば良いんだろ?ったく、森岡はこうゆうことに関しては頭働くな。」俺は二人にジュースをおごった。勝負には負けたが、森岡の言うとおり、汗をかくと元気がでるし、気持ちがいい。
しかし、ジュースをおごることはくやしい。
ジュース…
ジュース………
俺は今後ジュースをかける試合はしなくなった。