第97回
鍋下空八専務は鳥殻部長と専務室の応接セットに座り、談笑していた。
「おう、塩山君! 来たか…。待っとったんだ」
私の姿を見て鍋下専務が開口一番、そう云った。
「何か急な用向きでも?」
「そうじゃないんだが…。まあ、かけたまえ」
鍋下専務は自分達が座る応接セットの空きスペースを指さした。
「は、はい…」
私は専務の操り人形のように、命じられた位置へ腰を下ろした。
「実は…、君を呼んだのは他でもないんだが、次の異動でね、君を次長に推そうと考えておってね…」
「えっ? 私が、ですか?」
「うん。鳥殻君とも、そう話しとったんだがね」
鍋の下に鶏ガラか…。こりゃ、美味そうなスープだ…と私は瞬間、不謹慎にも思った。
「ありがとうございます。あのう…、それで私にどうしろと?」
「なあに…どうしろ、などと云うために呼んだんじゃないんだ。内示しておこうと思ってね」
鍋下専務は、やんわりと説明した。これも玉の霊力による幸運の兆しなのか…と、思えた。
「内示でしたか…。それで、私の後任は?」
「それなんだがね。児島君なんかどうだろうと思ってね。君はどう思うかね?」
「うちの課の児島ですか?」
「ああ…」
「彼なら、申し分ないと思いますが。私もいろいろと助かりましたので」
「そうか! なら、決まりだな、鳥殻君」
「そうですな、専務」
二人はニタリと意味ありげに笑って、私の顔を見た。