第9回
「分かった、分かった。そう怒るなよ。今日は偉く機嫌が悪いな。…じゃあ、焼飯にする」
「はいはい…。別に怒ってる訳じゃないんだから」
不満顔で早希ちゃんは焼飯を調理し始めた。二人の遣り取りが面白いのか、ママはクスクス笑いながら最後のコップを布巾で拭き終えた。
焼飯は中華飯店でよく食べていたが、みかんでは初めてだった。味はどうかな…と、少し不安気だったが、案に相違して割合と美味く、中華飯店のものと比べても遜色はなかった。いつもなら世辞のひとつも云うのだが、この日は憎まれ口を叩かれたのが影響したのか、無言に終始して食べ終えた。
みかんを出たのは午後十時過ぎだった。いつもなら、お得意の接待と云うことで気楽な物云いも出来ず、閉店の十二時近くまで店に籠ってカラオケ三昧なのだが、今夜のように一人だと案外、手持無沙汰になるんだ…と気づかされる。ママと早希ちゃんに、また一人で来るから、その時に話の顛末を聞かせて貰うと云って店を出た。二人は店の外まで送り出してくれた。こういう小さなサービスは嬉しいものだ。外は店に入る前の時雨空が嘘のようで、澄み渡った漆黒の空に、満天の星が広がっていた。