第83回
「そういうこと。…やっぱり、沼澤さんが云ってらした水晶玉の霊力かしら?」
「さあ…、どうなんでしょう」
私は曖昧に暈して、ママの追及を回避した。
「あら、ごめんなさい。勝手に話しちゃったわ。まあ、そういうことだから、私にも分かんないけど。いらしてね。お待ちしてま~す」
「あの…、この前のだけでしたかねえ? ツケ」
「満ちゃんは、めったと回さないから全然、たまってないわ。上得意様」
「またまた…、上手いこと云うなあ、ママは。その口に、いつもやられてんですよね」
「あらっ、それじゃ私が、根っからの悪人じゃない。こんないいママ、いないわよ」
「いや、冗談ですよ。ママもいいし、みかんもいい…」
「あらっ? 早希ちゃんは?」
「早希ちゃん? …ああ、そりゃ、もちろん」
「満ちゃんは、なかなかお上手ねえ。まあ、悪い気はしないけどさ…」
「それじゃ、適当な頃合いに寄りますので」
「はい! 是非。お待ちしています」
玉の霊力によるものならば、私の意志が通じ、今日のみかんには人っ子一人いないはずだ…と、私は改めて思った。座椅子から立ち上がった私は、例の貰い物の美術品に掛けたハンガーから背広を外し、ポケットに入れた紫水晶の小玉を今一度、見た。