第82回
「あらっ! 満君? 嫌だわぁ、誰かしら? って思ったわよ。…そうそう、この前はごめんなさいね。嫌な思い、させちゃって…」
男にしては妙に女らしい云い回しが、声質以外は女以上だ…と、私を思わせた。
「いやあ…、別にどうも思ってませんよ。それより、今夜あたり押しかけようって思ってたんですが、混みますかねえ?」
「そうねえ…、たぶん、この前のようなことはないと思うわ。この前はさあ、お店始まって以来のお客様だったんだから」
「そうだったんですか」
「ええ…。でね、次の日から二日間、お店をバタン、キュ~よ。疲れちゃったからさあ~」
「お二人ですしねえ…」
「そうなのよお~、一見さんでも、来て下すったお客様を追い返す訳にもいかないじゃない」
「はあ、まあ、そうなりますかねえ…」
「だからさあ、あんな多くのお客様」
「何か、混むような訳とか、あったんですか?」
「それがさあ~、早希ちゃんも云ってたんだけど、私も全然、心当たりがないのよぉ~」
「怪しな話ですよねえ」
「そうなのよぉ~。もうすぐ、クリスマスだっていうのに、どこか変。怪談なんてさあ」
「確かに…。季節はずれで、余計に寒くなっちゃいますよねえ」
私は冷静にママに合わせた。