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第8回
「まあ、それはいいとして、その奇妙な紳士が果して現れるかが問題なんだ」
「そういうこと…」
「お腹、空いてんなら何か作るわよ」
ママは洗ったグラスやコップ類を早希ちゃんに渡す。早希ちゃんは器用にそれ等を拭く。ママの顎に剃り残した毛が何本か見えたが、メンツを潰すのも悪いな…と思え、敢えて云わなかった。厚化粧を突破するほどなのだから、かなり毛深いのだろう。
「そういや、何も食ってなかった…」
「早希ちゃん、何が出来る?」
「ピラフにナポリタン、それと焼飯ぐらいなら出来ます」
「ご飯、あったかしら?」
「冷凍パックが、まだあります」
「そう…、ですって」
ママは私をじっと見て、ニコリと笑った。美人なのだが顎のこともあり、微妙な不気味さが漂う。
「スナックで焼飯か。こりゃ、いい」
私は思わず口を滑らせ、云わなくてもいいことを口走ってしまっていた。
「なによ! 焼飯はメニューにないわよ。満君だから云ったのよ」
早希ちゃんは怒った顔で口を尖らせた。