第76回
同様に、このことをママや早希ちゃんに云うことも、ままならなかった。今のところ、科学では到底、解明出来ない不思議な事象に遭遇しているのは私一人であり、ママや早希ちゃんには何らの異変も見えておらず、多少の幸運以外、取り分けて怪奇な現象が生じていないからだった。言葉に出す以上は、小馬鹿にされず説得可能な根拠と説明が必要である。残念なことに、私のみに時折り見える玉の異変を、この時点では説明しようもなかった。
客二人が帰り、私もチューハイと烏賊さしをほとんど、やっつけていので店を出た。案に相違してお愛想は安かった。こりゃ、ママのサービスはマジかよ…と、少しの怖さと酔いを醒ます寒空の中を漫ろ歩いて駅へと向かった。例のワンパータンである。家の玄関に辿り着いた頃、丁度、日付が変わった。今のところ、みかんの玉以外、曖昧な会社で起こった二件を除けば異変は生じていなかった。家の中ではどうだったのかといえば、やはり何事も起こらず、日々が過ぎていた。なぜ家では何も起きないのかという素朴な疑問は湧いたが、そんな疑問を吹き飛ばすような大異変が、すでにこの時点で起ころうとしていた。もう初冬の便りがテレビで流れる季節に入っていた。