第6回
「この前さあ、不思議なお客様がいらしてね…。一見さんなんだけど…」
私がグラスの酒をひと口飲んだ時、それを見ながらママが訴えるように語りだした。
「そう、あの客、少し怪しいんじゃないって、お店を閉める時、云ってたんですよね」
「ほう…、何が怪しかったんだ?」
「それがさ、丁度、満君の座ってる席に座ってたんだけどね、その紳士。手持ちの鞄から紫の布切れに包んだ水晶玉を取り出してさ、カウンターへ置くのよ」
「んっ、それで?」
私は奇妙な話は高い確率で割合と信じる方なので、早希ちゃんの話に耳を欹てた。
「で、さあ。カクテルをひと口美味そうに飲んでね、布切れをゆっくりと開けると、玉を覗き込んだの」
「この店に近く、幸運が訪れます。それがどういう形で起こるのか、今は云えません。この次、お寄りした時、お話の続きをしましょう、ってね。なんか意味深でさあ、イカサマにしちゃ真実味もあるし、気味悪くなってさ」
「それ、いつの話なの? ママ」
「つい最近よ。早希ちゃん、いつだったかしら?」
「確か…、えーっとね…。木曜…じゃなかった、水曜。そう、水曜の筈です、ママ」
「今日が火曜だから、一週間前か…」
「すぐ近くが交番だからさあ。まあ、余り恐くはなかったんだけどね」
「別の意味で怖かったんですよね」
「ええ…」
ママの陽気な顔が幾らか曇ったように見えた。