第52回
「ママが云ったでしょ、別に何もないわよ。どうしたの? 今日の満ちゃん、何か変…」
「そうよぉ、熱があるんじゃないの。さっき、風邪ぎみたとか云ってたから…」
早希ちゃんだけでも私の手に負えないのだが、ママまで加勢されれば、これはもう、まるでお手上げだった。ここは一端、引くしかないか…と、思えた。
「ははは…、冗談、冗談だよ。少し驚かしてやろう…なんて思ってさぁ」
私は態とテンションを上げて陽気に話した。この作戦は一応、功を奏したようで、二人はそれ以上、突っ込まなかった。だが私の目の前の玉は、やはり黄や緑色を発して渦巻いているのだった。彼女達に二人にはそれが見えないのだ…と、水割りを飲みながら妙な気分で思った。
その夜は二人の攻撃と体調不良もあってか、変化する玉に心残りはあったが早めに店を出た。まだ、十一時にはなっていなかった。私は常套手段で帰ろう…と、車を駐車場へ置いたまま、ブラリと駅まで歩いた。木枯らしが吹くにはまだ少し早かったが、それでも夜の冷え込みは冬の間近いことを物語るようにきつかった。歩きながら思ったのは、変化した水晶玉が私だけに見えたという厳然とした事実である。これから先、どんなことが私の身に起こるというのか…。沼澤氏の話からすれば幸運が訪れるというのたから怖さはない。しかし、奇妙であり、いつ起こるかも知れない…という漠然とした不安が私の胸中を過り、駆け巡っていた。