第49回
「その後、どうなの? 沼澤さんは来る?」
「この前、来たけど、すぐ帰ったわ」
早希ちゃんは、まったくそっけない。
「そうなのよ。もう少しゆっくりしてらして、って止めたんだけど…、変化がないようですので、また、っておっしゃられてね」
「そうですか…」
「で、満君の方はどうなのよ?」
早希ちゃんが割って入った。
「今日のことが偶然なら、まだこれって云えるラッキーは起こってないなあ」
「あらっ? 今日のことって?」
「まあ、一杯、飲ませてくれよ、云うからさ」
「あら、そうだったわ…。いつものダブルね」
「はい…」
ママはキープした私のボトルを酒棚から下ろす。諄い早希ちゃんの追及を何とか掻い潜った私は、ママが出してくれたコッフの水を飲んだ。いつも出ない筈の私への水コップが出されたことに、ママの小さな気配りを感じた。
「会社のさぁ~、接待があったんだけどね。ちょっと風邪ぎみで嫌だなぁと思ってたら、先方さんから断りの電話が入ったのさ。これって偶然? って思った訳よ」
「ふう~ん」
早希ちゃんは気のない返事をして携帯を弄っている。
「まあ、そんなことは、よくあるわよねえ。それだけじゃ、何とも云えないわ」
「そうですよねえ…、俺もそう思います」
ママが云うのは説得力があり、正当に思えた。