第48回
それは私がペコリと禿山さんに頭を下げ、また上げた一瞬だった。笑うつもりはなかったのだが、思わず笑みが顔から自然に零れていた。禿山さんには私の心中など分かる筈もないのだが、笑顔の私を見て、禿山さんはまた微笑み返しながら頭を下げた。またそれが私には可笑しく、必死に笑いを堪えて足早やに通用門へと向かっていた。
A・N・Lで軽めの夕食を済ませた私は、しばらく、コーヒーなどを飲みながら時を過ごした。秋の陽は釣瓶落としである。そうこうするうちに外はとっぷりと暮れ、暗闇が俄かに迫ってきていた。私は勘定を済ませ、A・N・Lを出ると、みかんへ向かった。
「もう、そろそろ来る頃かな? って云ってたの」
ママは愛想よく私を迎えてくれた。
「そうですか…、俺のペースはだいたい決まってるからなあ」
そう云って軽く躱したつもりだったのだが、どっこい、早希ちゃんがいた。
「あらっ、毎日通ってくれたって、いっこう構わないのよ。ねえ、ママ」
「そりゃ、もちろんそうなんだけど…」
ママは話を取り繕おうとした。私は返せず、まったく食えない娘だ…と、少し怒り気味の私自身が情けなく思え、また怒れた。