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第41回
「って、満君が富豪になるってことですか?」
遠いボックスに座る早希ちゃんが声を投げた。
「えっ? あっ、はい。そういうことも含みますね」
早希ちゃんを見遣り、沼澤氏は返した。そしてまた、マティーニをチビリと、ひと口やった。この沼澤氏がチビリとカクテルグラスを傾ける仕草が、老齢の枯れた風貌に実によく馴染んでいるように私には思えた。
「私、満君のお嫁さんにして貰おっかなあ~。どぉ~、満君?」
「悪い冗談はよせよ。本気にするぜ」
マジで云っているようには思えなかったが、私としては悪い気はしない。こんな中年男に、二十そこいらの娘が靡くとは思えないが、そうとも限らないぞ…という微妙な可能性を否定しつつも信じている節があった。
「いいお得意様のようだから大事にしないといけないわね。ホホホ…」
ママも本気で云っているとは思えなかったが、べんちゃらを繰り出しながら笑った。
「沼澤さんが偉いことを云ってくれたお蔭で、今夜は二人に苛められるなあ…」
私は冗談混じりで愚痴った。
「いえ、本当のことをお告げしたまでです…」
沼澤氏は終始、冷静さを保ち続けた。