第4回
人通りは天候の加減か、いつも程はなく、私は、とある行きつけのスナックのドアを開けた。その店は、いつだったか、時研の村越さんや悟君と闊歩した通りを少し奥へ入った細い路地の雑居ビルにあった。
「あらっ、満君じゃない。今日はお一人?」
ママの明日香さんは四十半ばの小股の切れ上がったなかなかの美形で、こんなことを云っちゃなんだが、年増男のわりには色気があった。
「ん? まあ、見ての通りですよ…」
すると、もう一人、『スナック・みかん』の看板娘の早希ちゃんが店奥から顔を出した。彼女は、れっきとした女である。。…だろう。…ほぼ、間違いないように思う。私はこの早希ちゃんに幾らかホの字で、行きつけの店にしている節が正直なところなくもない。二人とも源氏名だから本当の名までは知らず、まあその程度の付き合いに終始していた。実は、もう少し早希ちゃんに近づきたかったのだが、どうもシャイな性格が邪魔をして、全く関係は発展する兆しを見せなかった。
「まあ、悟君。今日は一人なのね…」
「そうさ、一人で来ちゃ悪いかい?」
「あらっ、少し怒ってる? 可愛い!」
ニコッと笑った早希ちゃんの顔で怒りを忘れてメロメロになってしまうのだから、私もまあ、その程度の男だ。