第35回
「なんか、よく分かりませんが、取りあえず頂戴しておくとしましょう。…しかし、ママが云うように、ただ戴くというのも気が引けますね」
「いや、本当に気になされず…。どこぞで景品を貰った、ぐらいに思って戴ければ、それで結構ですから…。あとで金をせしめよう…などという類の話ではないですから、どうぞ、ご安心を」
「そうですか? ただほど恐いものはない、と申しますがね。…それじゃ。いえね、実のところ、霊感商法か何かじゃないか、と云っていたんですよ」
私はママから手渡された小玉を脱いでいた背広上衣のポケットに入れた。
「ははは…、それはよく云われます」
沼澤氏は小さく笑い、グラスのマティーニをまたチビリと口へ流し込んだ。
「小玉も同じように幸運を招くのでしょうか?」
私は素朴な疑問を沼澤氏に投げ掛けた。
「それは無論ですよ。ただ、前の棚に置かれている水晶玉に比べれば、親子ほども差はございましょうが…」
「そうなんですか? よく分かりませんが…。で、その霊力は金銭面だけのものなのですか?」
「いいえ~、あらゆる多岐の方面に渡り、幸運が訪れます」
「なんだ、いいこと尽くしじゃありませんか」
「ええ、まあ…。今は、そう思っていて下すって結構です」
沼澤氏は少し意味深な云い方をした。三人の目線が一斉に沼澤氏に注がれた。