第316回
「寝不足ぎみのせいだと思います」
「そう? なら、いいんだけど…。いつものでいい?」
「えっ?! もう、かなり飲んでますので…」
「おかしい子ねえ。なに云ってんのよ。今、来たばかりじゃない」
ママはカウンターの酒棚側へ入ると、氷を準備し始めた。つい今し方までと、どうも雰囲気が変化したように思えた。ただ変わらないのは店の佇まいであった。
『いや、驚かせてすみません。あなたは今、過去の時空へ次元移動移動したのですよ』
「ええっ!!」
お告げに、私は思わず絶叫していた。それを聞き、ママと早希ちゃんが私の方を振り向いた。
「満君! どうかしたっ?」
「いえ、別になんでもないです!」
「そう? …びっくりするじゃない」
早希ちゃんがママに加えて云った。お告げとの心話は聞こえない二人だから、これは仕方がなかった。
『すべては大玉様のご意志です。玉が時空を動かすのは、すごい人だけだと、いつか申したはずです』
「ええ、それはまあ…。しかし、今の私は、どこに存在しているんですか?」
『まだ沼澤さんにあなたがお会いしていない頃ですよ』
「と、いうことは、数年も前だ…」
私は、ただ唖然とした。
『そういうことです。すべてが起こる前の時空なのですよ…』
お告げは厳かに云い切った。