第311回
「ところで話は変わりますが、児島君は頑張ってますか? 長らく会ってませんが…」
「ああ、児島部長ですか? 彼は張りきってやってくれております。随分、助かります」
「ほう、児島君、部長になったんですか?」
「はい。つい数ヶ月前なんですがね…。部長の湯桶君が退職しましたので…」
自ら万年リストラ候補を買って出て、多くの社員をリストラの荒波から救った湯桶さん。ようやく部長代理、そして部長と昇格した・・涙なしには語れない、その湯桶さんがついに退職されたのだ。私はなぜか感極まり、涙していた。こういう人生もあるんだ…と思えた。
ニ日後、私は会社を訪ねた。玄関へ入ると、鍋下専務へ数日中に行くと云っていたから、そのことは当然、伝わっていて、炊口社長は今か今かと私を待っていた。
「いやあ、ご足労をおかけしました。ひとつ、よろしくお願い致します」
「それはよろしいんですが、わたしのような者でいいんでしょうか? 鍋下専務の方が適任かと…」
「何をおっしゃる。あなたの常務までの実績からして申し分ないと判断した上です」
「そうですか…。そこまで仰せなら、微力ながらお引受けしましょう」
「ええ、あなた以外にはおられません。それに今や、名誉町民でもあられる。さらには、世界にもミスター塩山の名は轟いておりますからなあ、ははは…」
「いや…恐れ入ります」
こうして私は執行役員として米翔の取締役社長を拝命することとなった。