第29回
ただ、すでにママが小箱を沼澤氏から手渡されていたから、事の次第を聞いてからにしようと思い、云わずにおいた。
「綺麗な紫水晶ですよね。なんか、キラキラしてるな。あっ! 光の加減か…。これ、結構したんじゃないですか? ママ」
「それがさあ~、私がいくらほどお支払すればよろしいでしょう? って訊ねたらね、そんなもんは頂戴出来ません、けっこうです、って、こうなのよぉ~」
「少し妙な話ですね」
「そうなのよ。私もいたから、これは怪しいな…と思ったわ。誰がお金も貰わずにさ、高価なものを置いてく馬鹿がいるう?」
早希ちゃんが、かなり興奮して話に割り込んできた。
「んっ? そりゃ、まあそうだわなあ…」
間違ってはいないから、私も異論を挟む余地がなく、そう肯定した。早希ちゃんが急に話しかけるとは思っていなかった心の油断もある。
「しかしママ、いったい沼澤さんの意図は何なんですか? 商売でもないようだし…」
「私もね、そんなことをして貰っちゃ困ります、とは云ったんだけどね。棚の水晶玉も預かってることだしさあ。でも、どうぞ気兼ねなさらず、って諄く云われるもので、つい」
ママは小箱を貰った事情を説明した。