第285回
「いつもので、いいわよね?」
「はい…」
「ゆっくりしていけるの? 今回」
ママが水割りを作りながら、それとなく訊ねた。早希ちゃんはカウンター側へ回って私の隣へ座った。
「えっ? ああ…そうもしてられないんですよ。二日ほどで帰ります。って云うか、帰らねばならないんです。帰らないと偉いことになりますから…」
「ふ~ん、そうなの? 大変なのねえ、国のお仕事は…。会社なら、なんとでもなってたわよねえ~」
「ええ…、それはまあ」
その時、携帯を弄っ画面を見ていた早希ちゃんが、大きな溜息をつきながら云った。
「ダメだわぁ~。ママ、全然ダメ!」
「だから云ったでしょ。そんなボロい話なんて、ある訳ないんだから」
「何かあったんですか?」
「満ちゃんからも云ってやってよ。この子、本当に懲りないんだから…。この前もコレで損したのよ~」
ママがそれとなくカウンターへ置いたのは、出来た水割りのグラスと新聞の株式欄だった。
「ほう…、早希ちゃん、一攫千金はまだ諦めちゃいないんだな?」
「そらそうよ。私は、それが生き甲斐なんだから」
「でもな。今、ママが云ったとおり、少しは懲りんとなあ。土壺に嵌るぞ、そのうち」
私はお灸をすえるつもりで、少し驚かした。