第278回
「あっ! どうも…。それで、沼澤さんは最近、一度も寄られてないんですか?」
「それそれ! 私も早希ちゃんも少し気味悪いしね。どうしようって云ってたとこなのよお~」
「沼澤さんって、一人暮らしでしたっけ?」
「分かんないわ。霊術師たる所以ね。それに私、一度も行ったことないから…。なにせ、連絡は電話だけだったからさあ…」
「妙に気になりますねえ。…そういや、店で最後にお会いした夜、『皆さん、お元気で!』って云ってらしたですねえ。それが少し気がかりです」
「まさか、最近さ、巷で流れてる独居老人の孤独死、ってんじゃないでしょうね」
「いやあ…それはないと思いますが、何かに思いつめて自殺、なんてえのは強ち、否定できませんよ…」
「ちょっとした、サスペンスじゃない?」
「いや、ちょっとしたスリラーでしょ、この場合」
二人は大笑いした。まあ、笑えるような不確実な世間話だからいいんだが…と思えた。その後、しばらく話し、最後に早希ちゃんと二人で是非、霞ヶ関へ遊びに来てくれるよう招待して電話を切った。十一時中ば頃の深夜だったが、寝酒の酔いも去り、妙に頭が冴えて寝つけなかった。私はベッドを離れ、テーブルに置いたブランデーをもう一杯、喉へと注ぎ込んだ。