第276回
「話は変わるけどさあ、沼澤さんも突然、消えたように来られなくなったし…、寂しくなったわ」
「ああ…、そういや沼澤さん、まだ眠気会館で心霊教室をやってられるんですか?」
「それなのよ。私もね、全然、お見えにならないし、連絡もないからさあ、行ってみたのよ」
「ほう、どうでした?」
「それがさあ~、会館の職員の話では、あの心霊占いの教室は、もう終わってます、って…。それも突然によお~」
「はあ…、突然に、ですか。…あのう、云いにくいんですが、長電話になりそうですから、また夜にでも、こちらから、かけます」
「あっ! そうだわ。私としたことが…。満ちゃん、会社だと思ってたからさあ」
「ええ、一応は大臣室ですので…」
私は自慢するつもりはなかったから、暈した。
「それじゃ、またね…。かけてよねえ~」
妙に色っぽい猫なで声に、私は一瞬、ゾクッ! っとした。女性なら、いい気分で電話を切るのだろうが、男だと知っているから、妙な気分で切るしかなかった。恰も、熱からず冷たからずの湯で、もう少し熱めなら…と思えるような中途半端な感覚だった。腕を徐に見れば、十一時近くになっていた。昼からは、国連の地球語部会での進捗状況を代表派遣されている言語学者から受けることになっていた。