第27回
案の定、みかんには開店準備中の掛け札が下がっていたが、店の鍵は開いていた。ドアを入ると、ママがカウンターの椅子に座っていた。店内は態と採光を遮った漆黒の闇で、その中にクリプトン球のペンダントや壁埋め式に設置されたビーム球がオレンジ光を放って適当に配置されていた。その醸し出す柔らかな浄光が心を和ませ、のんびりと酒を味わおう…という気分にさせるのだった。
「あらっ! 満君、やっぱり来てくれたのね」
早希ちゃんは、まだ店には出ていなかった。
「ママだけみたいですね」
「えっ? ああ、早希ちゃん? 早希ちゃんなら、もう来ると思うわ、まあ、座って。あの子にしちゃ珍しいのよ。いつも私より早いんだから…」
そうなんだ…と、内輪の事情を知らない私は初めてそうした事実を知らされた。早希ちゃんは、早く店へ出て開店準備をする感心な娘…というイメージが勝手に私の心中で形成されていく。私は、ママの隣の席へ座った。
「ところで、電話での話って何ですか?」
「ああ、満君に見せたいものがあるって云ったこと? …それは、後から…」
「偉く勿体ぶりますね?」
「そんなことないわよ。ただ、早希ちゃんもいた方が話が弾みそうな気がするから。ただ、それだけ…」
ママはカウンター席を立ち、酒棚側へ入った。