第268回
念力を出すといっても、霊術師の沼澤氏のようにそう慣れた私ではない。前回は初めてコンタクトをとり、上手く呼びだせたが、今回は二度目であり、果して首尾よくいくものかどうかは疑問だった。しかし、念力を送ったあと湯を両手で汲み、顔へジャブッっとかけたとき、お告げが舞い降りた。
『お浸かりのところを…』
「いや、上手く繋がったようですね」
『電話じゃないんてすから…』
露天風呂の湯の中だと気分も寛ぐ。そのせいか、私は冗談ともつかぬザレごとを口にしていた。
『ははは…。で、何か急ぎのご用でも?』
「いえ、そういう訳でもないのですが…」
こりゃ、湯に浸かりながら話せるものじゃないぞ…と、次第に思えてきた。というのも、かれこれ浸かって小一時間ばかりは経っているようで、少し逆上せてきたのだ。
『…あとにしましょう。その方がいいでしょう』
「えっ? そうしていただければ…」
『では、そういうことで…』
前にも云われたことだが、お告げは私の体調のことまですべてお見通しのようだった。話を一端、中断させると、サッと退去した。こういうメリハリの利いたところが、さすがに人間とは一味、違う…と私には思えた。