第263回
「な~に。誰だって私のような立場になれば、あの程度のことは出来ますよ」
お告げにはもう身体が慣れているせいか、いつ舞い降りても、そうは驚かなくなっていた。身体が自然とお告げに順応したといえる。
『いやいや、そのようなことはありませんよ。今までおやりになった発想は、凡人には浮かばないものです。それに、それらの発想を実現されたではないですか。そう、ご謙遜なさいますな』
「別に謙遜している訳ではないのです。地球語にしろ変動固定相場制にしろ、すべては小菅総理の発案で、私はそれを実行しただけです」
『その実行が凡人には出来ないのです。それに、教育システムの改変は、塩山さんがおやりになった独自案じゃないですか』
「教員制度ですか? ええ、それはまあ…。以前から現行の制度改革はおかしいと考えていたことですから、偶然出来た奇跡的ヒットですよ」
私はそう云って軽く笑った。諄いようだが、云ったというのは発想上のことであり直接、口に出した言葉ではないから、誰の耳にも聞こえない。私はこれを、心話と呼ぶようになっていた。だがこのことは、眠気町のみかんの二人と会社の児島君、それに退職された警備員の禿山さん、消えた霊術師の沼澤氏、このわずか五人が知るのみで、他の人々は、まったくもって知らないのである。まあ、こんなことを真顔で世間に云おうものなら、たちまち変人扱いされ、日本国の大臣を罷免されることは必定なのだが…。