第255回
「あっ! もうこんな時間ですか…」
ふと、腕を見ると九時を回っていた。
「ほんとだ…。今日は、この辺りにしますか…。それじゃ、さきほどの件、よろしく頼みます。国連日程などの詳細は後日、秘書官を通してお伝えしますので…。態々(わざわざ)、お呼び立てしてお手数をおかけしました」
小菅総理との話を終え、私は首相官邸を出た。玄関近くまで総理は送り出してくれた。幸い、帰りも取り巻きの記者連中の姿はなく、私は闇へ紛れ、地下鉄の人となった。
『もし…』
舗道を歩き、帰路を急いでいると、暗闇の中にお告げが舞い降りた。
「あの…すみません。一寸、疲れてますので、家へ着いてからにしてもらえませんか?」
『ああ…これは、とんだ失礼をしました。先ほど訪れはしたのですが、小菅さんと熱心に話されてましたので、ご遠慮していたのですが…』
「そうでしたか。お待たせして申し訳ありません。それに、また待たせますが…」
『いいえ、それはいいのです。小菅さんのお話ですが、地球語の方は大変、魅力的なお話しに思えましたもので…』
「と、いいますと、あなたがお出しになった霊力ではないのですか? それに、変動固定相場制の方はどうなのでしょうか?」
『ええ、私じゃなく大玉様の霊力なんですよ。まあ、その辺りは長くなりそうですから、のちほど…。それじゃ』
お告げは短時間で終息した。