253/317
第253回
「総理に、そのようなことが…」
玉の霊力のせいに違いありません、と云おうとして、私は慌てて口を噤(つく゛)んだ。そんなSFチックな話をすれば私の人間性が疑われることは間違いがない。一端、任命された以上、訳もなく罷免されることはまずないだろうが、今後、敬遠の対象になることは必定なのだ。それでは態々(わざわざ)、推挙してくれた煮付先輩にも申し訳ないし、彼の顔を潰すことにもなりかねない…と思えたのだ。
「どうかされましたか?」
私が急に沈黙したので、小菅総理は私の顔を窺った。
「はっ? いえ、べつに…」
「私自身にも原因が何かは分からんのですよ。体調が悪いということもないですし、そんな稀有な発想は今まで思いついたこともなかったですしね。まあ、不思議という以外には…」
「はあ…。確かに科学で説明できない不思議な話はあるようですが…」
「ほう、…塩山さんにも何か思い当たることがお有りですか?」
「えっ? いや、まあ…。世間ではそんなことを云ってますから…」
うっかり口を滑らせそうになり、私は急遽、お茶を濁した。