第246回
『そんなことは、ありません。今に分かりますよ、塩山さん。…他に、何か?』
「えっ? いや…まあ、これぐらいですが」
『そうですか…。じゃあ、これで。また…』
いつの間にか私は、ウトウトとしてしまった。そうして、白々と朝が巡った。
煮付先輩が云っていた十日は、瞬く間に過ぎ去った。その間、私は鍋下専務、病気全快により復帰した炊口吹男社長とその件について話し合い、結論を得ていた。私はふたたび無報酬の顧問として社外へ去ることになった。むろん、内閣が倒れた折りには復職するという条件を取りつけた上でのことだった。
「そうか…。なら、その時はひとつよろしく頼むぞ。さっそく、小菅さんに報告しておかなきゃいかんな。喜ばれると思うぞ、ははは…」
「いやあ、大してご期待に添えるかどうか…」
私は先輩に合わせて笑いながら云った。美人秘書の日浦君が別室にいる手前、聞こえない程度の小声である。
「うん! それでいい。俺だって、小菅さんの力になれるかどうか分からんのだ。相手は世界だからなあ…、舞台がでかい!」
「たしかに…。それじゃ、失礼します」
携帯が切れた直後、別室のドアが開き、日浦君が遠慮がちに入ってきた。