第244回
「長話になるから切るぞ。また、かける。今回も十日ほど待つから、それまでに考えといてくれ」
「はいっ! 態々(わざわざ)、どうも…」
なぜか、煮付先輩には頭が上がらなかった。私は礼を云いながら電話を切っていた。
「なんなの?」
ママがグラスを拭きながら訊ねた。
「ああ…、いつやら話した先輩です」
「国会議員さんの?」
「えっ? ああ、まあ…」
私は曖昧に濁した。ボックス席のカラオケは相変わらず盛り上がっていて、別世界のようであった。しばらくの間、しんみりとグラスを傾けて、私は勘定を済ませた。
「それじゃ、ママ。また来ます…」
「お気をつけて…。またねっ」
早希ちゃんがボックス席から手だけ振った。私は軽く片手を上げて返した。ママの方はニコッと愛くるしい笑顔を見せた。美形だから、どこかそそるものがあるが、やはり同性かと思えば、すぐ萎えた。下ネタではなく、プラトニックなものである。
眠気駅まで漫ろ歩いて、酔いもほどよく醒め、心地よかった。煮付先輩の電話は、やはり玉の霊力によるものだろうか? などと思いながら、私は夜道を歩いていた。
帰宅して眠りにつく前、私はこちらから玉にコンタクトをとろうと、ベッドに横たわりながら集中して念じていた。