第24回
「もちろん、動かしちゃ駄目ってことでもないらしいの。ここへ置いとけばさあ、埃を被ったりするじゃない。当然、今日、早希ちゃんがやってたようなことをするでしょ? で、玉に被った埃とか周囲とかを雑巾で拭くことになるわ。すると、ひょんなことて触れたり触ったりすることもありよね?」
「ええ、そりゃまあ…」
私は、ただのオーディエンスになった。ママのボルテージは益々、増幅する。
「だからさあ、玉を動かしちゃ駄目っていうのでもないわけ。要はさ、他の場所へ移したりすれば霊気が失せるってこと」
「…と、その紳士が云ったんですね?」
「そう…」
そうなんだ…と思いつつ、私はグラスを口へと運び、グビッと冷えたウイスキーを飲んだ。
「名刺を貰ったそうじゃないですか」
「そうそう、…これっ」
ママは酒棚の隅に置いていた名刺を手に取り、カウンターの上へ置いた。
「沼澤草次…、どこかで聞いたような名だなあ…」
私はカウンターに置かれた名刺を眺めながら、話すでなく呟いた。
「真砂稲荷の宮司で沼澤さん、ってご存知?」
「えっ? ええ…そりゃもちろん。聞いてよく知ってます。沼澤草男さんですよね?」
「そう…。その沼澤さんの弟さんらしいわ」
「へえ~! 世間は広いようで狭いんだなあ~」
私はトーンをやや大きくして、少なからず驚いた。