第231回
「まあ玄関前での話もなんだ。中でゆっくり話そうや…」
私は気づかず、児島君を立たせていたことに気づき、そう云いながら鍵を開けた。
家に上がり、ソファーに座ってもらったものの、湯も沸いていなければ茶菓子も切らせていたことに気づいた。一人暮らしの侘しさである。仕方なく土産用にと駅構内で買った菓子を勧めようとしたが、これも茶がないとな…と思え、やめた。
「君さ、今日は車で来たのか?」
「えっ? いえ、バスですが…」
「そうか…。なら、酒は大丈夫だよな」
「ええ、まあ…」
酒は各種を取り揃えていた。つまみは晩酌用にと買っておいたカニ缶がいくつかあった。少し貧乏臭いが何もないよりは増しだろうと思え、それらを準備した。
三十分後、私達は程よく出来上がっていた。
「まさか、こんな早く部長が戻られるなんて、考えもしてなかったですよ」
「部長じゃないぞ。元部長の会社顧問だぜ」
「ああ、そうでした。でも、再雇用で復職されれば、また部長なんでしょうし…」
「んっ? ああ…まあ、そうらしいが。…で、今、私の仕事は誰がやってんだ?」
「湯桶次長、オケセンさんですよ」
湯桶洗澄次長か…と、彼の律儀な風貌が頭を過った。いわゆる、社内で仏のオケセンと有り難がられている風貌だった。